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2004/03/22 00:00 更新

e-biz経営学
国際化の水準を測る三つの尺度:自由気ままに振舞えることがベスト

今回は、国際化について本格的に考察する最後の前提として、国際化の水準を測る三つの尺度について考えてみたい

 第1回では国際化を考える枠組を提示し、第2回では司馬遼太郎著「アメリカ素描」に書かれた「“文化”から“文明”への昇華過程」を紹介しながら、国際的な事象を形態・構造で把握してしまう陥穽を避けるには機能性に着目することが重要であることを論じました。今回は、国際化について本格的に考察する最後の前提として、国際化の水準を測る三つの尺度について考えてみたいと思います。

 最初の尺度は、国際化の原動力に関するものです。今、自由に使えるお金として1万円持っているとしましょう。使える地理的範囲が限定されている場合には、それほど嬉しくないかも知れません。例えば、筑波大学のキャンパス内でしか使えないとすれば、学生食堂はそれほど美味しくないし、生協で本を買うのが関の山です。もし制限を緩めて、つくば市全域で使ってよいとすれば、パチンコ屋、飲み屋、カラオケ、映画、より大きな本屋、フランス料理の店等、選択肢の幅が広がり、満足度は向上することでしょう。

 一般的に、組織であれ個人であれ、何かを決定するということの裏側には、限られた制約の範囲で効用を最大にするという構造が備わっています。数学的に言うと、選択肢の集合である実行可能領域の上で効用関数を最大化するということになります。ここで、実行可能領域を以前のそれを包摂する形で拡大できたとすれば、最適解は悪くても以前と同じ、多くの場合、より良くなります。なぜなら、以前の選択肢はそのまま残り、更に以前にはなかった選択肢をも考慮して効用を最大化することになるからです。つくば市全域は筑波大学キャンパスを包摂していますから、キャンパスで1万円を使うことで効用が最大化される人は制限が緩められても結果が変わりませんが、そうでない人は選択肢の幅が広がることによって満足度が向上することになります。

 国際化の原動力は、まさしくこの点にあります。国際化は、実行可能領域を拡大するという人間の自然な欲求に支えられているのです。国際化することによって選択肢の幅が拡大し、誰にとってもより良い解が得られる訳ですから、保護貿易等、政府の関与によって短期的には多少の起伏があるにせよ、中・長期的には誰も国際化を止めることはできません。以上より、国際化の水準を測る尺度の一つとして、「社会・組織・個人が実行可能領域を拡大することの難易度」を考えることができます。

 国際化を測る二番目の尺度は、「社会や組織の構成員の持つ自由度」です。宇宙空間でガスを放つと、無限の方向へ拡散します。熱力学の言葉でいうと、「自然的存在はエントロピーを最大化する方向へ動く」ということになります。エントロピーは、物質のランダム状態を測る尺度で、これが高いと無作為状態が高い。勿論、このままでは物質が構成されませんから、重力・電磁力・大きい力・小さい力が働いて、物質のエントロピー最大化への衝動を縛っている訳です。人間も自然の一部ですから、本質的には何ものにも束縛されず、自由に勝手気ままに振舞える状態がベストです。しかし、社会や組織として機能するためには、自然界の様々な力に対応する制度や管理原則を導入することが必要になります。

 国際化においては、歴史的・文化的・宗教的背景の異なる人々が共通の場で共に活動することになりますから、構成員の自由度の高い社会システムや組織が持続的な強さを持ちます。皆さんも、部下に仕事を頼む際に、結果を自分の責任で保証しつつも部下の自由度が高くなるように努力すれば、より国際的に通用する管理者になることができます。そうした管理原則の構造については、国際化時代の組織管理の項で詳述します。

 ほぼ70年の壮大な実験を通して社会主義の失敗が明らかになり、人類が持つ「希少資源を社会的に配分するシステム」としては、市場メカニズムだけが残されているかに見えます。近未来的には、世界経済が市場メカニズムを中心に展開されるであろうことは確実です。市場メカニズムを構成する主要な担い手は、中産階級です。従って、国際化を測る三番目の尺度として、「中産階級の成熟度」を挙げることができます。組織で言えば、中間管理層までの待遇です。この点から考えると、全てについて市場競争を通して優勝劣敗を決定していくアメリカ的市場主義が最良の社会システムであるとは、とても思えません。パイ全体が大きくなっていることに隠されていますが、アメリカ社会における富の偏在はますます進み、中産階級の相対的な弱体化には驚くべきものがあります。この点については、国際化時代の社会システムの項で更に論じたいと思います。

 国際化の観点から世界を視る際に重要なことは、共時的(空間的)に考えるだけでは不十分で、通時的(歴史的)要素を考慮した重層的な視点を持つことです。世界の各地は、国際化の水準に関して「異なる段階」にあります。そして、水が重力によって高所から低所へ流れるように、熱が高温から低温へ移るように、国際化は水準の高い方から低い方へ波及していくことになります。

 問題は、高い方は共時的にのみ考えがちなことで、自らの高い水準を保持する条件を、低い方へ押し付けることが横行しています。世界銀行やIMFが崩壊した旧社会主義諸国へ財政的援助を行う際の付帯条件に見られるように、アメリカの発想は多くの場合、共時的思考の典型です。国際化の水準が異なる段階にある状態のままに自由競争を強いれば、低い方が劣勢になるのは当然です。一方、グローバリズム反対運動も、国際化の原動力が誰にも止めることのできない人間の自然な欲求に根差している事実を見過ごしている点で、誤っています。

 世界が国際化の水準で均一化する方向へ動くことを前提として、異なる段階にある国が異なる経路を考える、高い方はその段階の違いを認識した上で影響力を波及させていく。こうした重層的な視点を持つことが、現在、国際化を巡る諸問題を考える上で何より重要だと思います。

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[住田潮,筑波大学]

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