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2004/04/06 22:00 更新
製品開発のプロジェクトマネジメント
第4回:プロセスの改善を行うパーティショニング
DSMでは業務プロセスを表記するだけでなく“操作”することでプロセスの改善案を導くこともできる。DSMの操作方法のうち、今回は「パーティショニング」について説明する。
DSMと情報のフィードバック
たとえば、図1のような順序で進められている製品開発プロセスを考える。AからEのボックスはタスクを表しており、図1はタスクの実施順序だけを表しているものとする。言い換えると、タスク間の入出力関係は、この図には書き込まれていない。このプロセスを、DSMを使って改善することを考える。
図1:製品開発プロセスの例
まず、各タスクを実施する際にはどのような情報が必要となるのか調査する。調査により、たとえば「C.試作評価」を実施する際には「B.製品設計」で描いた設計図面だけでなく「A.仕様検討」でまとめた製品の使用方法説明書が必要である、というようなことが分かる。調査した結果をDSM形式で表現したものが図2である。X印はタスク間の情報の流れを表している。上述した「CはAとBからの情報を必要としている」ことは、C行のA列とB列にある2つのX印が示している。
このようにDSMを作成すると、対角線の左下にある印は、前工程から後工程への情報の流れ、すなわちフィードフォワード(図2の青矢印)を表しており、逆に、対角線の右上にあるX印は、フィードバック(同、赤矢印)を表していることが分かる。
図2:製品開発プロセスのDSM
フィードバックを削減する
ここからは図1が表す現実の世界を離れ、図2のDSMに基づいてプロセスの改善策を考える。
さて、図1のプロセスを図2のDSMに表記したことで、フィードバックの存在が明らかになった。このプロセスをより効率的に進めようとするならば、フィードバックはできるだけ少ない方が望ましい。理由は以下の通りである。後工程からのフィードバックはすでに実施したタスクの結果に対して「良否」の判断を迫る。運良く「良」と判断されれば大きな問題はないが、「否」と判断された場合は、後工程からの情報を踏まえた上で、同じタスクを「やり直す」必要が生じてしまう。
ここで、もしも後工程から渡される情報を事前に入手できていたならば、その「やり直し」を回避するための手段が取れたはずである。つまり、フィードバックとして得ていた情報をフィードフォワードとして得られるならば、ムダな「やり直し」を回避することができ、プロセスをより効率的に処理することができる。
説明がやや複雑になったので、この考えに基づいて実際に図2のプロセスを改善した結果を見てみよう(図3)。個々のタスクがどのタスクからの情報を必要としているのか、というタスク間の関係は変わっていない。しかしタスクの順序を並べ替えたことにより、対角線より右上にあるX印の数が4個から2個へと減っている。つまり、図2と図3は同じ内容の業務プロセスを表しているのだが、タスクの実施順序を変えたことにより、図3の方がより少ないフィードバックでプロセスを完了させることができるようになったのである。
図3:図2のタスクを並べ替えたDSM
また、図3に残っている右上のX印が図1よりも対角線に近づいていることにも注目してほしい。前回、右上X印がタスク間の相互依存関係を示す場合があることを見た(第3回参照)。実際、図4にグレーで示したブロックは相互依存的なタスクを示している。たとえばタスクA、Eは互いの情報を必要としており、相互依存的な関係にある。従って、この2つのタスクは繰り返しながら処理されることになる(タスクB、C、Dの関係も同様である)。このような繰り返し処理では、繰り返しに含まれるタスクの数は少ない方が効率的である。一方、右上X印が対角線から離れれば離れるほど、このX印を頂点に持つ相互依存タスクのブロックは大きくなる。
つまり、右上に残されたX印が対角線に近づくほど繰り返しに含まれるタスクの数は減り、繰り返し処理は効率的になるのである。
対角線から遠いX印の例は、図2のA行E列に見ることができる。このX印は、プロセスの最後にタスクEを実施した結果、最初に実施したタスクAをやり直すかもしれないことを示している。
図4
ここで再び現実世界に戻り、記号操作だけで導いた結果を解釈しなおしてみると、次のようなプロセス改善案が示唆される。
- 仕様検討段階に製品企画の事業性を十分に審査すること。
- 事業性審査を通過した製品仕様に基づき、設計・試作・評価のループを効率よく回すこと。
パーティショニング
今回見てきたように、右上のX印をできるだけ少なくし、それでも残されたX印はできるだけ対角線に近づくようにタスクを並べ替えることを、パーティショニングと呼んでいる。パーティショニングは手作業で実行することも可能であるが、市販されているソフトウェアを利用する方が効率的である(例えばProblematics社が提供しているPSM32などがある)。
ポイント
●DSMで表記したプロセスは、下記のようにタスクを並べ替えることで改善される可能性がある。この操作をパーティショニングと呼ぶ。
1. 右上X印の数を減らす。
2. 右上X印をできるだけ対角線に近づける。
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次回もDSMを使ってプロセスの改善案を検討する方法について説明する。
関連リンク
米マサチューセッツ工科大学(MIT)
Problematics
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第3回 DSMの読み取り方
第2回:DSMによる業務プロセスの記述
第1回:従来の方法による業務プロセスの記述
連載開始にあたって
※iTiDコンサルティング
2001年、電通国際情報サービスと米ITIの合弁会社として設立。 両社の特長を受け継ぎ、「製品開発の“品質”にフォーカスをあて、その抜本的な改革を支援する」ことを事業コンセプトに、わが国初の開発生産性定量指標『iTiD INDEX』の開発や独自の『ワークストリーム』の導入など、独創的な手法で製品開発プロセスの抜本的な改革を支援している。
水上博之
電通国際情報サービスでCAD/CAM/CAEシステムの導入支援などに従事した後、2001年より現職。主にメカニカルエンジニアリング領域における設計業務改革のコンサルティング活動に携わっている。
[水上博之,iTiDコンサルティング]
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