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2004/05/13 01:30 更新

「情報メディア白書2004」から〜電通総研が斬る! 地上デジタル放送への論点(4)
ヨーロッパに見るデジタル放送の完全普及シナリオ

「情報メディア白書2004」の巻頭特集ではアメリカ、ヨーロッパ、アジアの動向も取り上げている。今回はその中からヨーロッパにおけるデジタル放送の完全普及に向けた政策的取組みを紹介したい。

多様な放送受信環境

 1990年代末の早い段階から放送デジタル化に取り組んだヨーロッパの多くの国が抱える課題は、今後どのようにデジタル放送を普及させるかである。しかし、各国のテレビ受信環境は、地上波、ケーブル、衛星が混在している。そのことがヨーロッパの放送デジタル化を一律に論じることを難しくしている。

図1

【ヨーロッパのアナログ放送受信環境】

放送デジタル化の現状

 欧州視聴覚研究所によると2002年末におけるEU15カ国のデジタル放送受信世帯数は2741.9万世帯(世帯普及率17.8%)で、その8割強が衛星経由でデジタル放送を受信している。

 国営放送を中心に放送産業が発展したため視聴可能チャンネル数がもともと少なかったヨーロッパでは多チャンネル需要が根強かった。こうしたニーズを背景に急成長した衛星やケーブルなどの有料プラットフォームが90年代末からデジタル化を進めたことが、ヨーロッパ全体の放送デジタル化を加速させたといえる。

図2

【主要国のデジタル放送受信世帯数(2002年末)】(クリックで拡大)

 もっとも、放送デジタル化の先には地上アナログ放送を「いつ、どのように停止するか」という課題がある。欧州委員会は欧州の情報化を目指すアクションプラン「e-Europe2005」において地上アナログ放送停止計画の策定を加盟国政府に求めた。また昨年9月にはアナログ停波の課題を整理した報告書を発表し、欧州市場全体の停波に向けた枠組み整備に乗り出している。

図3

【各国の地上デジタル放送実施計画】(クリックで拡大)

完全普及へのロードマップ

ここではヨーロッパにおけるデジタル放送の普及要因を整理し、アナログ放送停止にいたるデジタル放送市場の段階的発展モデルを提示したい。

(1)デジタル放送市場立上がり期:市場牽引プレーヤーの存在

 既に見たようにヨーロッパでは有料放送プラットフォーム事業者がデジタル放送普及初期に重要な役割を果たしてきた。デジタル放送のインセンティブの一つである多チャンネル・サービスを提供していることに加え、新規契約獲得のためのSTB(セット・トップ・ボックス)のレンタル、無償配布などの施策がデジタル受信世帯拡大に大きく貢献するためである。いうなれば、事業者間競争の中で事業者が消費者のデジタル化コストの一部を肩代わりする構図である。

 もっとも、競争環境下での初期投資回収は非常に難しい。契約獲得競争が熾烈だった英国では、先行する衛星放送BSkyBに対抗するため有料地上波プラットフォーム、ITV DigitalがSTB無償配布戦略を採用したが、中途解約が相次いだため債務超過に陥り、コンテンツ価格の高騰も相まって2002年に事業停止に追い込まれている。

(2)デジタル放送市場拡大期:視聴者の自発的デジタル化

 多チャンネル需要を取り込むデジタル放送普及の次段階として、無料または低廉なコスト負担でデジタル放送を視聴できる環境が不可欠となる。この段階ではアナログ放送とのサービス内容の差別化とその訴求も併せて重要である。多くの国ではチューナー費用を負担するだけで20−30チャンネル程度が視聴可能となることがメリットとして打ち出されている。

 同時にデジタル受信機普及の観点からは家電メーカーの製品戦略が重要な意味を持つ。低廉なSTB、あるいは買い替え需要に合わせたチューナー内蔵テレビ受像機を市場に投入することで自然なデジタル移行が進むためである。

(3)アナログ停波:政策介入を伴う目標達成

 デジタル受信機市場が形成されれば、長期的には買い替え需要に従ってデジタル普及は確実に進展する。しかし、規制当局による市場介入抜きには各国が掲げるアナログ停波目標の実現は難しいだろう。

 欧州委員会は普及を市場に委ねるのを大原則としながらも、政策介入を正当化できる要件として、デジタル化による利益が社会、文化、政治、経済など多方面に及ぶこと、そして事業者だけでは完全移行コストを負担できない市場の失敗の存在を挙げている。

 2004年に世帯普及率が50%を超え完全普及が現実的な課題として認識され始めた英国では、目標の2006−10年にアナログ放送を停止するためには政策介入が不可欠との議論が起こっている。BBCは財政支援を含めた政策介入がなければ停波基準の一つである95%普及が達成できるのは2013年になると予測し、政府に対し具体的な普及支援策を示すよう求めている。

図4

【デジタル放送完全普及への道程】(クリックで拡大)

 ヨーロッパ諸国の受信環境、放送市場構造の違いに応じて(1)から(3)のフェーズの位置づけは異なるが、いずれにしてもアナログ停波目標を実現するためには、政府がどのタイミングでどのような施策を打ち出すかが各国共通の課題となっている。

ドイツ・ベルリン地区のデジタル完全移行

 現段階でアナログ停波を実際に行ったのは世界でもドイツのベルリン・ブランデンブルグ地区しかない。ベルリン地区でアナログ放送は2003年2月から8月にかけて段階的に打ち切られ、同年8月に完全に停波した。

 ベルリン地区はアナログ地上波受信世帯が10%未満という特殊環境にあった。しかしそれを差し引いても完全移行策のヒントが多い。なかでも、混乱なく移行を進めるため100万ユーロがマーケティング予算上限として計上され、徹底したコミュニケーション戦略が練られたことは指摘しておきたい。地上波デジタル化により視聴可能チャンネル数が8チャンネルから30チャンネルに増えることがテレビCMで告知されたほか、全移行対象世帯に移行に関する案内状を郵送するなどの広報活動が展開された。

 州政府による補助金政策も打ち出され、民放局に対するインセンティブ付与に加え、社会保障の観点からは低所得世帯へのSTBリース提供や高齢者を想定した相談窓口の設置など多くの対策が講じられた。

今後の課題

 ヨーロッパ諸国はベルリンの事例を参考に、自国の完全移行政策を打ち出そうとしている。各国に共通する課題は、政府がアナログ放送停止基準を明らかにした上で、行政、放送、家電、流通の関連業界が協力し、消費者の不利益をもたらさない移行プランを策定することである。

 産業育成の視点が不可欠である一方で、放送デジタル化をアナログからデジタルへの単純な技術移行問題として片付けられないのは、放送には多様な情報、言論の場を提供する社会的機能があるためである。アナログ停波が生活者の情報アクセス手段を奪うことがあってはならない。

 同様の議論は昨年末に三大都市圏で地上デジタル放送を開始した日本でも起こると思われる。アナログ停波目標時期の2011年までに解決すべき課題は多いが、放送環境が異なるとはいえヨーロッパ各国が採用しようとしている普及促進策は日本にとって有益な示唆に富んでいるといえよう。

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[森下真理子,電通総研]

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