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システム構築におけるP2P通信の活用ITソリューションフロンティア:技術

» 2004年11月19日 00時00分 公開
[木村綾太郎,野村総合研究所]

P2Pモデルへの新たな取り組み

 P2P型システム(以後、P2Pモデルという)では、すべてのノード(コンピュータ、通信制御装置など。ネットワークが線であるのに対し、ネットワーク上の点を表す)が対等な関係をもち、ノードどうしが直接通信を行う。

 今日、ファイル共有など特定の分野を除けば、P2Pモデルの活用はあまり進んでいない。

 従来、P2Pモデルといえば、アプリケーション機能面に重点が置かれてきた。しかし、ノードどうしが直接通信するという点に着目すれば、新たな活用場面を引き出すことができそうである。以下、従来型の「P2P機能モデル」と、野村総合研究所(以後、NRI)の「P2P通信モデル」を比較してみる(図1参照)。

図1

(1)P2P機能モデル

 すべてのノードは同等の機能をもち、対等の関係にある。たとえば、P2Pファイル共有アプリケーションは、すべてのノードが発信者にも受信者にもなるためP2P機能モデルにあてはまる。

(2)P2P通信モデル

 すべてのノードは、直接通信を行う。また、ノードの関係は対等でありどちら側からでも通信を開始することができる。たとえば、インターネット上のメールサーバどうしの関係は対等であり直接通信を行うため、P2P通信モデルにあてはまる。

P2P通信モデルの技術的なポイント

 いずれ到来する「ユビキタスネットワーク」社会においては、これまで以上に多数のノードが接続されることを想定しなければならない。したがって、一対一型の通信形態(ユニキャスト通信)では通信量が増大してしまう。そこで、一対多型の通信形態(マルチキャスト通信)が有効となる。

 そこで、NRIはP2P通信モデルに着目した、「P2P論理ネットワークの自律構成手法」のプロトタイプを作成した。これは効率的なマルチキャスト通信を含む一般的なパケット型通信が可能であり、アプリケーション開発者は特別な考慮をすることなくP2P通信モデルをシステム設計に活用することができる。また、シンプルでコンパクトな通信ライブラリとして実装可能となっている。

 この通信ライブラリとしての提供形態により、既存システムへの導入が段階的かつスムーズに行えるようになる。

応用例

 以下、NRIの確立した「P2P通信モデル」が、従来のシステム上の課題解決に有効に活用できることを、応用例を使って説明する。

(1)メッセージ通知

 通知サーバーとクライアントPCをクライアントサーバー型で接続する従来の手法では、通知サーバーに処理が集中するため、通知サーバーに過大な負荷がかかる。また、すべてのメッセージは通知サーバーが接続されたネットワークを通過するため、このネットワークの帯域を圧迫することにもなる。経験上、この方式で接続が可能なのは数千台規模までである。

(2)ファイル配布

 従来の中継サーバー方式では、中継サーバーの導入が必須であり、中継サーバーの導入コスト運用コストが発生する。また、配布サーバー、中継サーバー、クライアントPC間の紐付けを人手で行う必要があり、クライアントPCの増加にともなって運用負荷も増大する。また、この方式では中継サーバーの障害への対応が困難である。

(3)分散DBの並列検索

 拠点ごとに設置されたローカルデータベースを、本部から一度に検索するような場合である。個々のデータベースに対していちいち問い合せを行う従来の手法と違い、マルチキャスト通信機能を利用して、対象データベースの検索を一度に行うことができる。また、マルチキャストグループへの参加・離脱は動的に行われるため、対象データベースの増減に対応することも容易である。

今後の取り組み

 NRIの確立した手法は、アプリケーションレベルで仮想的なネットワークを自律的に構築し、その上で一般的なパケット型通信を可能とするものである。これにより、さまざまなアプリケーションにP2P通信モデルを組み込み、有効に活用することができる。

 また、論理ネットワーク上での柔軟なマルチキャスト通信により、多数のノードが自由に参加・離脱を繰り返す「ユビキタスネットワーク」環境においても効率的な通信が可能となる。

 現在、実プロジェクトへの適用に向けて(1)ファイアウォールを越えた論理ネットワークの構成、(2)幅広い環境への対応を行っている。

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