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HYUNDAI・KIA自動車グループのグローバル戦略ITソリューションフロンティア:海外便り

» 2005年05月30日 21時00分 公開
[鄭有珍,野村総合研究所]

急展開をみせるグローバル生産体制

 HYUNDAI・KIA自動車グループは、生産現地化によるグローバル生産体制を積極的に展開している。この取り組みは、競合自動車メーカーと比較して、その著しい展開の速さと、主要市場攻略のための効率的な役割分担体制という2 つの点で際立っている。

 同グループは、1997年にトルコ、1998年にインド、2002年に中国で現地生産を始めた。今後、2005年には米国、2007年にはスロバキア、さらに、長期的にはロシア(現在ノックダウン生産中)および南米で新車生産を開始する計画である。この計画により、現在約50 万台の海外生産台数が2006年には125万台、2008年には170万台、2010年頃には200万台程まで拡大する。トヨタが半世紀かけて築いてきたグローバル生産体制を10年足らずで実現しようというのであるから驚く。

 この急展開の背景にあるのは、世界市場セグメンテーションによる生産体制の役割分担である。今年稼動する米国アラバマ工場は中小型車およびRV中心、トルコ工場とスロバキア工場はヨーロッパ市場向けの小型車およびディーゼル乗用車、東南アジアの工場は商用車およびバスなどの組立拠点、といったように、近接する市場の攻略を意識した役割分担がなされている。

 BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の新興成長市場)における現地生産能力の拡大も顕著で、インド、ロシアに次々と進出する海外企業のなか、販売台数1位を独走中である。今後、インドは軽小型車の生産・輸出拠点として育成していく方針であるという。

 中国では、現在、中国の合弁完成車メーカーのうち第5位だが、中国へ進出した海外自動車会社のなかでは最短の24ヶ月で生産台数20 万台を記録した。今後、フルラインナップの生産体制を敷き、現在の30万台を2008年には約100万台に拡大し、中国市場をリードする狙いであるという。

グローバルな現地部品調達戦略

 こうしたグローバル生産体制を支える戦略が、「同伴進出」と「現地部品業者の活用」による「部品の現地調達の最大化」である。

 従来、同グループは、部品調達を韓国および日本のサプライヤーに依存していた。今後は、系列部品業者や協力企業の海外生産基地への同伴進出を通じ、垂直系列化を強化していく。また、主要でない部品については、現地部品業者からの調達量を増やし、原価低減効果を最大化させていく。これにより、主要部品については安定的な供給と品質維持を図り、その他の部品によってコスト削減を図るという二面戦略を展開していくことになる。

 実際、中国および米国工場においては、部品調達現地化率がすでに80%を越えている。また、新しいスロバキア工場も、早期段階において75%を目指すという。

 こうした部品調達体制は、関連会社であるHYUNDAIモービス社が統括し、戦略的一貫性が担保されることとなる。

ITインフラ整備によるバックアップ

 同グループのグローバル戦略の実現には、ITインフラの整備が欠かせない。すなわち、海外生産体制の拡大により、変動する在庫、注文生産への対応、消費者ニーズなどを把握するとともに、顧客、仕入先、パートナー、社員間の円滑なコミュニケーションを実現することが重要となってくる。

 こうした狙いから、同グループは、SCM (サプライチェーン管理)に着手し、部品供給網の一新を図った。また、海外生産体制の拡大によりERP(統合基幹業務システム)の導入を積極的に推進している。アラバマ工場の生産システムには、すでにERPが導入済みで、今後、このシステムをグローバルに拡大していく計画である。

 さらに、同グループは、今年から生産、調達、販売の各分野のITシステムの統括、加えて人事、経営企画などの業務プロセス革新を目指すプロジェクトを推進する。

 プロジェクトチームは、昨年10月、米国ベアリングポイント社(コンサルティング企業)との間で編成済みである。このプロジェクトは、韓国史上最大のITプロジェクトになるものと思われる。(以上、韓国自動車工業協会の資料、HYUNDAI自動車・KIA自動車などの各年度事業報告書、プレスリリースなどに基づく)

今後の課題

 韓国の自動車産業は、世界で一番高い成長率の達成を目指している。しかし、同グループのグローバル戦略には注意すべき点がある。

 第一は、新技術の開発力である。とくに、代替エネルギーおよびITS(高度交通情報システム)分野における技術水準は、日本などにかなり遅れていると言ってよい。

 第二に、HYUNDAIモービス社による中央統制型の部品調達体制の成否である。これがグローバルな部品調達ネットワークの円滑な構築の障害となるかもしれない。

 日本の自動車メーカーが、これまで韓国の自動車メーカーをライバルとしてはっきり意識したことはなかったように思う。しかし、同グループの急速なグローバル展開は、確実に「実体」ある「脅威」となりつつある。

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