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「コンテンツ投資」と「放映権買い」を勘違いするインフラ系放送事業者(1/2 ページ)

» 2004年06月10日 10時02分 公開
[西正,ITmedia]

 NHKと民放各社による地上波放送があまねく普及しているせいか、「テレビ放送を視聴する」ということに、相応の対価を支払う必要性があると感じている人は少ないだろう。

 新作映画を封切りと同時に見たいと思えば、映画館に足を運んで「入場料」を支払う。旧作の映画、ドラマ、アニメなどを見たいと思えば、レンタルビデオ店に足を運んで「レンタル料」を支払う。にもかかわらず、家に居ながらテレビを見るとなると、わざわざ“対価”を支払おうとまでは思わない――おそらくそんな人が依然として圧倒的多数派なのではないだろうか?

 これまでならば、それはそれで良かったのかもしれない。しかし、日本経済全体のソフト化という流れに着目されたのか、デジタル化、ブロードバンド化の進展によって、簡単に言えば、メディア周りでビジネスを展開するプレーヤーの顔ぶれが急増してしまった。そのため、あらぬ勘違いがさらなる勘違いを招くという状況がいろいろな局面で生じている。

 その典型が、「コンテンツを用意する」という、そもそものスタートラインでの“姿勢”に現れているのだから面白い。

コンテンツ投資=放映権買いとなった理由

 新たに登場してきたプレーヤーは、その大半がインフラ系である。ハイレベルなインフラを用意するだけの資金力も持ち合わせている。もちろん、“知識としては”優良なコンテンツをそろえなければビジネスとして成り立たないことも知っている。加えて、広告収入を当てにして商売を始めようものなら、既得権を持つ地上波民放を敵に回しかねないことも分かっている。だから、新しく登場してきたプレーヤーたちはみな、コンテンツ視聴の有料モデルを検討する。

 こうして、彼らは本稿のスタート地点である、「視聴者にどうやって対価を支払ってもらうか」「そのためには、どのようなコンテンツをそろえればよいのか」という問題に直面させられるのである。

 「有料」なビジネスを成り立たせるための「優良」なコンテンツというと、真っ先に思いつくのは、映画、音楽、スポーツといったジャンルだ。そうしたコンテンツをそろえるためには、本職の放送事業者でもない限り、いきなり「作る」ということは考えないので、相応の対価を支払って「放映権を購入してくる」というモデルになる。

 確かに、地上波テレビ放送50年の歴史をひも解いてみれば、本職の彼らも、放送開始当初から次々と新番組を制作していたわけではない。やはり、海外で制作されたコンテンツの放映権を購入してきていた。

 現在でも、ハリウッド物をはじめする映画の放映権は購入しているし、オリンピックやサッカーのワールドカップのような国際的なスポーツイベントでは、やはり放映権を購入するモデルが採られている。

 ただ、彼ら既存の放送事業者が放映権を購入して流す比率は着実に低下している。彼ら自身が製作・著作の権利を持てる形で、マルチユース展開を視野に入れながらコンテンツ制作に注力する。そういった方向性を強く打ち出すに至っている。

コンテンツ投資=「制作への関与」とすべき理由

 本職の地上波局がコンテンツ制作に力を入れる理由は、単に、テレビ放送開始当初と異なり、自らの制作力だけで十分に優良なコンテンツを取りそろえることが可能になったからというわけではない。

 国際的なスポーツイベントが典型的だが、放映権料は高騰の一途をたどっており、リクープする(投資を埋め合わせる)ことは難しくなる一方である。ハリウッドの大作映画についても然りだ。

 もちろん、国民的関心の高いスポーツイベントを放映するといったことは、本職の地上波局の「使命」として期待されており、ビジネスベースの発想だけで放送事業を行っていくわけにはいかないという側面もある。

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