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「コンテンツ投資」と「放映権買い」を勘違いするインフラ系放送事業者(2/2 ページ)

» 2004年06月10日 10時02分 公開
[西正,ITmedia]
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 ただ、いくら映画、音楽、スポーツがキラーコンテンツであるとは言っても、放映権を買ってくるだけではリクープが難しくなっている。資金力のある民放キー局各社にとっても、放映権を購入してくるだけのコンテンツ投資は割りの良いものではないのだ。

 話題作りの効果があることは否めないものの、ひと昔前のように、ハリウッドの超大作の放映権を30数億円も出して購入したりすると、民放キー局でさえ大赤字に陥るだけだろう。3000万円のスポンサーを12社ほど付けても、たった3億6千万円の収入である。スポット広告を10億円近く集めたところで、30数億円もの投資を回収できるはずがない。

 熾烈な視聴率競争の中で、ライバル局にどうしても勝ちたい時など、メンツにかけて、ビッグタイトルの放映権を購入してくることはある。だが、そうしたコンテンツ投資は最初から赤字覚悟で行うし、実際、赤字しか残さないのが現状である。

 であれば、当たり外れのリスクがあるにしても、自ら制作した方が余程、回収できる可能性が高いということになる。ペイテレビのコンテンツとして二次利用することはもちろんのこと、放送用に作られたコンテンツであるにもかかわらず、放送としてはハズレであったのに、DVDにした途端、大当たりするものも珍しくなくなっている。現在のトレンドからすれば、急速に普及しながらもコンテンツ不足に悩まされているブロードバンド(放送)向けに使うことを想定しておくことも重要である。こうして回収のソースを多く持つことにより、当たり外れのリスクを軽減することができる。

 本職の地上波局は、コンテンツ投資の重点を確実にこうした方向に向けるようになっている。ところが、新たに参入してきたインフラ系の事業者たちは、なまじ企業規模が大きいこともあって、資金力に物を言わせて放映権の取り合いを演じているケースが多々見られる。

 ハリウッド映画などでも、日本勢同士で放映権の取り合い、放映権料が吊り上るという構図が顕著になっているようだ。一方、ビジネスマインドに長けているハリウッド側は、日本の事業者に対しては、最初から高値で交渉を開始するという話も耳にする。

 後発のインフラ系事業者が有料モデルでのビジネス展開を強いられるのは無理からぬことだ。しかし「コンテンツ投資=放映権買い」であるとは限らないことには気づくべきだろう。ヒントの一つは、日本の制作プロダクションの活用である。

 日本では、コンテンツの制作現場であるプロダクションは、長く放送局の下請けに甘んじてきた。それゆえ、プロダクション各社の体力は弱まる一方である。

 インフラ系事業者の場合には、IP通信系で使用するコンテンツを求めていることでもあり、どうせ豊富な資金を投入するのであれば、国内のプロダクション各社にIP使用も可能なコンテンツの制作を委託するべきだろう。

 プロダクションを強くするために資金を投入することを、「(コンテンツを)自らが作る」と考えれば、本職の放送事業者でなくとも、放映権購入に走るばかりが解決策でないことが再認識されることになるはずだ。

 コンテンツ投資の意味することが確実に変わってきている。これに機敏に対応していくことこそが、有料モデルでのビジネス展開に欠かせぬ視点なのではなかろうか?

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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