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区域外再送信問題、いよいよ決着へ(1/2 ページ)

» 2005年03月31日 15時45分 公開
[西正,ITmedia]

電波の届く範囲は区域内

 地上波民放は原則として県域免許とされている。しかし、電波が届く範囲を県域に限ることなどできるわけがない。そこで、スピルオーバーの問題が起こってくるのだが、“自然に届いてしまう”ことと、それを受けて“本来ならば届かないエリアに運んでしまう”ことはまったく違う。ケーブルテレビの区域外再送信は、後者に該当する問題である。

 この区域外再送信を行うには、関連する地上波民放局の同意を得る必要がある。だが、アナログ放送については、地上波民放局が同意したものだけではなく、不同意だったものまで再送信されてきたという経緯がある。そこで地上波民放はデジタル化を機に、不同意の再送信を全面的に廃止させる考えである。

 区域外再送信は全国の至るところで行われているが、不同意なのに再送信が行われているケースとして、よく引き合いに出されるのが関西圏におけるサンテレビの取扱いである。

 サンテレビは兵庫圏域免許の独立UHF局である。そして、プロ野球の阪神戦というキラーコンテンツを持っている。言うまでもないが、阪神タイガースの人気は全国区だ。特に地元の関西圏には多くのファンがいる。当然、ファンが住んでいるのは、兵庫県に限らない。ところが、すぐ隣の大阪府に限らず、関西圏にはサンテレビの電波が届かないエリアが広範囲にある。そこではケーブルテレビ局による区域外再送信が行われているのである。

 また、過去には、山陰地区のケーブルテレビ局がサンテレビの区域外再送信を行うことの是非について論争になったケースもあった。結局この時は、放送局側とケーブルテレビ局側の意見の一致が見られない中、郵政大臣(現在の総務大臣)の裁定を仰ぐ形(大臣裁定)で、区域外再送信が行われるようになった。

 区域外再送信の問題が難しいのは、ケーブルテレビの加入者からすると、自分たちが見ている番組が区域内であるとか区域外であるとかなどは、何の関心もない話だからである。ケーブルテレビは有料サービスである。ちゃんとお金を払って見ているのに、それを区域外だからと言われて、デジタル化を機に見られなくなるとしたら、放送のデジタル化など迷惑な話でしかないということになるだろう。

 ケーブルテレビ加入者への説明の仕方が難しいことは確かである。ただ、放送のデジタル化は国策で進められているということと、デジタル化によって放送コンテンツについての著作権を有する権利者団体(以下、権利者団体)の対応が厳しくなっていることからすると、デジタル化を機に区域外再送信を止めざるを得ない事情が見えてくる。

 そういった諸事情を勘案すれば、一つの解決策として、“電波が自然に届いてしまうエリア”までは、区域内と解釈することは妥当と言えるだろう。地上波民放は原則として県域免許だが、免許エリアを見ると、電波の届くエリアが既に内包されているケースが多い。徳島県や佐賀県に民放局が一つしかないことも、電波のスピルオーバーによってカバーされることが前提と考えられているためかもしれない。

 屋根の上のアンテナで区域外の電波を受けられる世帯に対し、区域外の放送を見てはいけないと指摘することには何の意味もない。そうだとすれば、電波が届いてしまうエリアについては区域内であると考えることにしてケーブルテレビによる再送信を認めることは、非常に自然な解決策であると言える。

 他方、電波が届かないエリアでの再送信を区域外であると考え、区域外での再送信は関連する放送局の同意を得ない限り行ってはならないとするというのが、一年近くに渡って色々と検討されてきた議論の結論である。筆者はこの結論は妥当なものだと考える。

加入者対応の問題と権利者対応の問題

 区域外再送信を禁じるにしても、ケーブルテレビ加入者への配慮を欠くことはできない。関西圏で言えば、アナログ放送時にはケーブルテレビでサンテレビの阪神戦が見られたのに、デジタル化と同時に見られなくなることへは大きな不満が寄せられるようにも思える。

 しかし、果たしてそうであろうか。ケーブルテレビにはベーシックパッケージとして、映画、スポーツ、音楽といった専門チャンネルが20前後用意されている。これらは毎月の視聴料に含まれているので、そうしたチャンネルを視聴しても新たな料金が発生する心配はない。また、NHKのBS放送も視聴できるようになっている。

 スポーツチャンネルであれば必ず阪神戦が見られるとは限らないが、関西圏でサービスを展開しているケーブルテレビ局ならば、阪神戦の見られるチャンネルをパッケージに含めている局が大半であろう。プロ野球の阪神戦はNHKのBS放送で中継されることも多い。サンテレビの区域外再送信が認められなくなったとしても、ケーブルテレビの加入者が阪神戦を見るチャンスを失うわけではないのである。

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