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ここまで来た、日本のハイビジョン放送の現状小寺信良(1/3 ページ)

» 2007年06月25日 19時35分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 在京キー局は、近年新社屋につぎつぎと移転を行なっている。まだまだ新しいと思っていた赤坂にあるTBSのビッグハットも、もう在京局の中では一番古い建物になったというから驚きだ。この新社屋ラッシュの理由はもちろん、放送のデジタル化である。アナログとデジタルの両方を放送するということは、既存のアナログ設備にプラスして、デジタル放送用の設備を運用するということになる。当然、昭和時代に立てられた建物では、無理があるわけだ。

 つまり新社屋に移転することイコール、機材設備の更新が行なわれたと思って間違いないだろう。では日本の放送局で、ハイビジョン設備がもっとも新しいのはどこか。それは2004年2月末から運用を開始した、新橋汐留の日本テレビである。ハイビジョン放送という視点で見れば、世界的に見てもこの規模で全社屋をフルHD化した、最新の例であろう。

 2002年9月に総務省が発表した地上デジタル放送の免許方針では、高精細度テレビジョン放送について、1週間の放送時間中、50%以上の時間で実施することを放送局の要件としている。当時すでにBSデジタル放送はスタートしていたが、実質的なハイビジョン放送は、機材面からみてもなかなかハードルが高かった。総務省は現実的な策として、SDからのアップコンバートもハイビジョン放送と認めるなどの措置を取ったが、それが逆に視聴者にはどれがハイビジョンの画質なのか、混乱を招く結果となったのも事実だ。

 現実に、日本のハイビジョン放送はどこまで来たのだろうか。そこで今回は在京キー局の中で最新の設備を誇る日本テレビに、ハイビジョン化の実態を伺うことにした。お話しいただいたのは、日本テレビ技術統括局戦略センター長の熨斗賢司(のし けんじ)氏である。

ハイビジョン放送の実態

――今、ハイビジョン放送の比率って、どのぐらいまで来てるんでしょう。

熨斗氏: 今年の4月期でのHD比率は、87%程度ですね。しかし、スタジオ部分はピュアHDであっても、番組枠の中で多くの時間を占める取材VがSDのアップコン、という生情報系の番組もあり、これが今の定義ではHDにカウントされています。今、こういう点を早くピュアHD化すべく努力しています。

photo 日本テレビ技術統括局戦略センター長、熨斗賢司(のし けんじ)氏

――以前、ハイビジョン放送の番組比率を総務省が規定した時期がありましたよね?

熨斗氏: 以前、50%以上という数字はありましたが、もうすでにありません。地デジ開始初期の頃、2003年〜04年ぐらいまでは数値が載っていました。ですが、局のHD対応がわりと早く進んできたので、数値では示されなくなったのでは、と思います。

――その残っている15%のSDというのは、どういう事情で残っているんでしょう。

熨斗氏: 一番のポイントは編集だと思います。また、伝送路、取材カメラの問題ですね。日本テレビ本社の編集設備は全てHD対応済ですが、外部プロダクションでの編集が相当な数にのぼります。グループ会社には早い対応をお願いをしてきたので、かなりHD化は進んでいます。しかし、小規模なプロダクション会社も非常に多く、各社の編集設備を全部HD化で入れ替えるとなると、設備投資は厳しい話であり、当然、もう少し待ってください、ということになりますよね。

――カメラの方は、HDになってるんでしょうか。

熨斗氏: 日本テレビの放送用の報道取材カメラはすべてHD化し、フル稼働していますが、それだけで報道番組ができるわけではありません。報道記者が持ち歩いている民生のSDカメラも間もなくHDに更新するところです。それだけで百数十台になりますね。報道とは別な情報番組のディレクターなどが持っている民生のSDカメラも編集プロダクションの設備がHD化されれば、急速にHD対応になるでしょう。

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