コラム
» 2007年09月11日 12時30分 UPDATE

ソーシャルメディア セカンドステージ:【新連載】レコメンデーションの虚実(1)〜認知限界をどう乗り越えるのか (1/2)

日本のWeb2.0ビジネスを追った好評連載「ネットベンチャー3.0」から9カ月、ネットジャーナリスト佐々木俊尚氏がこれからのソーシャルメディアのあり方を探ります。第1回では、さまざまなかたちで触れることの多いレコメンデーションについてその限界を分析します。

[佐々木俊尚,ITmedia]

ネット情報増大と認知限界

 インターネットの情報は、今や洪水のようになっている。この洪水の中からどのように有用なコンテンツやデータをすくい上げるのかは、インターネットにおける最も重要なテーマだ。この問題を解決するアーキテクチャとしては検索エンジンが長く定番だったが、情報のオーバーロード(過負荷)が起きている中で、検索エンジンだけでは対応しきれなくなった。

 つまりはネットの情報の総体が、人間の認知能力をはるかに超えてしまっているということだ。これを「認知限界」という。認知限界というのはもともと、1978年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経営学者、ハーバート・アレクサンダー・サイモンが企業などの組織を説明するために使った言葉である。外の世界がどんどん複雑になってくると、人間はその複雑さを処理できなくなってしまう。そこで人間は組織を作った。組織に参加することで、外部から入ってくるさまざまな情報を整理し、的確に処理して対応するようになった――というのが、サイモンの理論だ。

 しかしインターネット時代に入り、この認知限界の考え方は組織論だけでなく、外界から入ってくる膨大な情報の処理という問題全体に広げて考えられるようになった。情報の量が天文学的になり、組織論だけでは情報処理というテーマに対応できなくなってきたからかもしれない。組織によってだけではなく、アルゴリズムによって情報の数を減らし、世界を単純化させようという考え方が生まれてきたのである。つまり認知限界を解消するために、利用者に見えている世界をもっと単純化し、シンプルにすっきりと、かつ的確に提示してあげるということだ。

 この「世界をすっきりと、かつ的確に」という解消方法は、今や1つの言葉で表現されるようになってきている――「レコメンデーション」だ。日本語に直訳すれば「お勧め」で商品の紹介のような意味合いになるが、いまネットの世界で使われているレコメンデーションという言葉は、先に書いたようにもう少し広い意味を含んでいる。

 ところでこの認知限界は、人によってそのレベルが異なる。認知限界の高い人には、できるだけ世界のありさまを生々しく伝え、そこからある程度は自分自身の力によって、データの取捨選択をしてもらうことができる。例えばインターネットのリテラシーの高い人が検索エンジンを使いこなし、深く広い情報を的確に収集できる能力を持っているのに対し、リテラシーの低い人は検索エンジンを使うと検索結果のトップページしか参照せず、情報の「タコツボ化」を招いてしまうというのはその一例だ。

PCのレコメンデーションと携帯のレコメンデーション

 認知限界が比較的低い人、あるいは認知限界を低くせざるを得ないようなアーキテクチャーを利用している人には、より単純化された世界が提供されなければならない。端的な例は携帯電話だ。携帯電話は画面に表示できるデータ量やユーザーインタフェースの制限から、PCに比べて認知限界が低いデバイスだ。このため、携帯電話に求められているレコメンデーションはパソコンのインターネットとはかなり様相が異なっている。例えば携帯電話向けモバイル検索ポータルサイトを提供しているエフルートの佐藤崇・代表取締役社長は、私の取材にこう話している。

 「パソコンインターネットと比べると、携帯電話インターネットではダイレクトで分かりやすいレコメンデーションが求められる。数多くのお勧めを提示して『この中から選んでください』というかたちよりは、少数のお勧めを端的なかたちで表示して『これが良いです』とレコメンデーションした方が受け入れられる傾向がある。この違いはおそらく、携帯電話とパソコンのユーザーインタフェースの違いからきているのではないかと思います」

 パソコンインターネットのレコメンデーションでは、「これを買え」という端的なお勧めよりは、Amazonの「この本を買った人はこんな本も買っています」といった表現で象徴されるような一歩引いた奥ゆかしいお勧めが喜ばれる。だが携帯電話ではそうではない。よりダイレクトで端的なお勧めが求められるのだ。画面が小さく、画面スクロールを行うのが面倒なこともあり、多くのお勧めリストを並べても利用者は閲覧しきれないという問題もある。エフルートについてはこの連載で後日詳しく紹介するが、同社はディレクトリとロボット検索を組み合わせ、携帯電話のユーザーインタフェースに特化した検索結果表示をデザインすることによって利用者の人気を集めている。

 さて、このような意味合いで考えれば、検索エンジンももともとはレコメンデーション的なアーキテクチャとして出発している。少なくともかつてYahoo!が提供していたようなディレクトリ型検索エンジンは、典型的なレコメンデーションだった。人間の能力では把握しきれないWebの世界をすっきりとジャンル別に整理し、体系化して利用者の前に提示してくれたのである。

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