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公式メニューという“強力すぎる”メディア

» 2007年10月19日 14時38分 公開
[佐藤崇,ITmedia]

 パケット定額制が普及し、携帯電話のネット機能を頻繁に使う人が増えた2003年以降、各キャリアの公式メニューが大きなメディアパワーを持ち始めました。コンテンツへの“入り口”となる公式メニューをキャリアが独占している現状は、サードパーティーの自由なサービス提供を圧迫し、モバイルネットの発展の足かせになるのでは――という不安もあります。

公式メニューは「電話帳」のようなものだった

 iモード・EZwebなどの公式メニューは当初は、モバイルネットユーザーが目的のサービスにたどりやすくするためのリンク集で、通過点でしかありませんでした。開始当初は画像もなく、電話帳のようなメニューの1つ――という見え方をしていたといえます。

 流れが変わったのは2003年末以降。パケット定額制が普及し始め、公式メニュー経由でどれだけページを閲覧しても通信料を気にする必要性がなくなった結果、公式メニューがPCでいうポータルサイトに近い役割を持ち始め、「メディア化」が進むことになりました。auはWIN端末向け公式メニュー「WINポータル」(現在の「au one」)を2004年に開始、ソフトバンクモバイルはヤフーのトップメニューと融合した「Yahoo!ケータイ」を2006年に始めるなど、ポータルとしての色彩を濃くしています。

 キャリアは公式メニューをポータル化する一方で、特定のサービス事業者と提携して公式サービスを直接提供するようになりました。オークションが代表例で、NTTドコモは楽天とau(KDDI)はDeNAと、ソフトバンクはヤフーと共同でサービスを展開しています。

 検索サービスも2006年から公式メニューに組み込まれました。ユーザーが最初に訪れるポータルとしてのポジションを保つためには、誰もが利用する検索サービスを公式化することは不可欠。そうしないと、ポータルの座を他の検索事業者に奪われる可能性もあったでしょう。

キャリアの強すぎる力がサードパーティーの成長はばむ?

 こうした構図は、PCで言えばISPのポータルサイトに似ています。ただ、携帯電話のWebブラウザの仕様は通信キャリアが規定するという点が大きな違い。排他的な立場を生かし、サードパーティよりも強力なポータルを作り上げることができます。

 PCでは検索やSNSが台頭したり、サードパーティーのポータルが力を持ち、ISPのポータルが弱体化する――ということも起きましたが、携帯公式メニューは、検索やSNSも巻き込むことで、従来通りの「最も便利な入口」としての立場を保とうとしているようです。

 それがユーザーにとってメリットがあるならば歓迎すべきでしょうが、キャリアが提携した特定の事業者を優遇することが、モバイルネットサービス進化の足かせになるのでは、という不安もあります。総務省は、モバイル業界のオープン化の流れを推進するため、通信キャリアがさまざまなサービス事業者と幅広く提携すべき、という方針を示しており、今後のキャリアの出方が注目されます。

 モバイル経由でネットにつなぐユーザーが、PC経由よりも多い時代、ネット業界の覇権をケータイから握るチャンスが来ている――と言えるかもしれません。モバイルネットの動向を把握するのは、PC向け大手ポータルの携帯進出より、通信キャリアの動向に注目すべきかもしれません。

佐藤崇

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 モバイルポータルサイト「froute.jp/エフルート」運営するエフルート社長。

 1975年生まれ。慶応義塾大学大学院社会学研究科修士課程卒業。2000年、フォンドットコムジャパン(現オープンウェーブ)に入社。携帯電話向けコンテンツディベロッパーマーケティングに従事した。2001年にオープンサイト運営者として独立、後に事業売却。2003年、ビットレイティングス株式会社(現:エフルート株式会社)を設立。froute.jpを中心にモバイルサイトのアグリゲーター業務を行う。

 著書に「ケータイ・ビジネス 成功の新常識」がある。


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