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レコメンデーションの虚実(7)〜“僕が好きな人”が僕の好みを気に入ってくれるとは限らないソーシャルメディア セカンドステージ(1/2 ページ)

» 2007年10月22日 12時30分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

「偶然の出会い」を与えてくれる“誰か”をどう見つけるか

 連載前回の最後で、このように書いた――偶然は、自分の力で見つけることは確かに難しい。でもどこかの誰かの力を借りれば、偶然は意外と簡単に見つけることが可能になるかもしれない。それがソーシャルメディア的アプローチである、と。

 問題は、この“誰か”がどこにいる誰なのか、ということだ。例えばソーシャルメディアといえば、すぐに思い出すのがミクシィだが、ミクシィ上の友人であるマイミクは、“わたし”にとって的確なレコメンデーションをしてくれる情報源となるのだろうか?

 「ロングテールの法則」で有名なクリス・アンダーセンは、ブログの「なぜソーシャル・ソフトウェアは質の悪いレコメンデーションをするのか」というエントリーでこう書いている。

レコメンデーション・ネットワークとしてソーシャル・ソフトウェアの問題はソーシャル・ソフトウェア自身に根ざしている。“友達”は特に趣向に関してはとっても無愛想な装置だ。悲しい事に、僕の友達のほとんどは音楽に関しては不快な趣向を持っている(だからと言ってそれを彼らに向けるわけではない)一方、僕が頼っている音楽のレコメンデーションのほとんどは一度も会ったことのない人達だ、Rhapsody編集者かMP3ブログか。僕がアドバイスを必要としている実質的に他の狭いカテゴリー全て;オッズでは本当にものを分かっている専門家は僕の知らない人たちばかりだということだ。

他の言葉で言うと、僕が好きな人たちと僕の好きな製品の間にあるように感じる関係性はあまりないということだ。アナロジーを使わせてもらうと、サンマイクロシステムス社(編注:原文ママ)の共同創設者のビル・ジョイは有名なこの自明の理を発言した(これはジョイの法則として知られている):“君が誰であろうと、賢い人達のほとんどは他の人のために働く”。同じ事はレコメンデーションについても言える。君が誰であろうと、君が知らない誰かがクールなものを見つけている。(『Wired誌編集長Chris Andersonのロングテール・ブログの日本語訳』、2005年7月7日)

イラスト

 “わたし”は、一面的な人物ではない。例えば音楽はプリミティブなワールドミュージックが好みだが、映画はヨーロッパの退廃的な映像が大好きだ。文学では村上春樹の大ファンだし、食べ物といえばレストランに行くよりは、自宅でゆっくり料理を楽しむ方が自分に合っていると思う。そういう“わたし”にとって、音楽、映画、文学、食べ物の各分野とも“わたし”の好みにぴたりと合うような友人を見つけるのは至難の業だ。そもそもそういう好みのぴたりと合うような“誰か”を見つけたとしても、その“誰か”が“わたし”と気が合うとは限らない。クリス・アンダーセンが言うように、「僕が好きな人たちと僕の好きな製品の間にあるように感じる関係性はあまりない」のである。

 となると、ミクシィのマイミクからレコメンデーションを得るのは、かなり難しいということになる。となると、そもそもリアルの知人からレコメンデーションを得るような、ソーシャル的な枠組みそのものが難しいということなのだろうか?

親しくないが趣味志向が合う誰かからレコメンデーションを

 いや、決してそうではない。そもそもソーシャルという意味合いを、自分の親しい知人や友人に制限してしまうというのは、前提のたて方として間違っているようだ。少し考え方を変えてみよう。アンダーセンは、先のブログでこうも書いている。

問題点を混ぜると、僕が音楽のレコメンデーションで信頼している人は映画で信頼している人達とは違う。ガジェットに関しても別の物知りグループで、同様のことがゲームと本に言える。実際、僕は評判や経験で形成された“信頼できるネットワーク”をたくさんあるけど、それらについて共通することはなく、ほとんどは友達とは思っていない。それらのいくつかは人間ですらない――ソフトウェアだ。

 ソーシャルレコメンデーションという考え方があるとすれば、ここでのソーシャルは必ずしもマイミクのような親しい友人、知人を必要とはしていない。そうではなく、“わたし”という一個の人間が持っているさまざまな切り口――音楽や映画、文学、ゲーム、食べ物、あるいは仕事、恋愛、人生観などに合わせて、それぞれに特化したソーシャル関係を作りだし、その関係の中から個別のレコメンデーションを得るような仕組みを考えていけばいいのだ。

 この考えを延長していけば、知人友人からレコメンデーションを得るのではなく、レコメンデーションをしてもらえるような趣味の似通っている人たちから、知人友人を作るようなモデルも生まれてくる。

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