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ねじれがねじれを産み続ける補償金と機器の関係小寺信良の現象試考(1/3 ページ)

» 2008年06月23日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 「もはや官の調整レベル」と言われたダビング10が急展開を迎えた。6月19日に開かれた総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委員会)にて、補償金の議論とはいったん切り離す形で、7月5日前後にダビング10をスタートさせる方針が確認されたのである。

 本来ならば6月2日スタートの予定だったダビング10だったが、録音録画補償金での折り合いが付かず、とん挫してしまっていた。メーカーと権利者団体が合意の上で決まったはずのダビング10なのに、なぜ官が出てきて調整しなければならないほどこじれてしまったのだろう。

 ダビング10、そして録音録画補償金の議論の流れについては、過去本コラムで何度となく取り上げてきた。ざっくりと主観を交えて言い表わすと、

  • ダビング10

 ムーブに失敗するなどの不満が高まり、総務省主導の元で放送のコピーワンス規制緩和策を検討。最初はEPNで検討という話だったが、デジコン委員会でモメてコピーワンスの延長線上とも言えるダビング10ルールに決着。一度コピーしたメディアからの孫コピーは禁止のまま。

  • 録音録画補償金

 2005年の文化庁法制問題小委員会では廃止を含めて検討ということだったが、仕切り直しの私的録音録画補償金小委員会では紛糾。遠い未来には夢のようなDRMが現われて補償金がなくなる世界観を文化庁が提案。補償金は縮小方向というコンセンサスがなんとなく取られる。

 ということになる。この2つは監督省庁も違うし、別々に動いていたわけだが、コピーワンスの規制緩和には著作権の問題も当然絡んでくるし、関係はあるんだけどそこはそれ、別の話だから、みたいな感じで直結した議論にはならなかった。今回の問題は、このなんとなーくふわふわした関係のままで議論を先延ばししてきた結果、どうしてもガチンコ勝負しないともう無理、というところに来たということなのだ。

一体何が起こったのか

 この2つの問題をダイレクトに結びつける火種となったのが、規制緩和を検討していたデジコン委員会が昨年8月に出した第4次中間答申である。その43ページに「その創造に関与したクリエーターが、適正な対価を得られる環境を実現すること。」と書いたことから、ダビング10でこの2つの問題がつながってしまった。

 つまり権利者側は、「その適正な対価とは補償金の事だろ常考」と言うのに対し、JEITA側は「そのつもりなら最初から補償金って書くだろ常考」と、表現をぼかしたことから来るすれ違いである。中間答申の文脈からすれば、この部分は補償金を想定したものではないように読める。なぜならば、補償金で補てんすべき案件については、別にきちんとそう書いてあるからである。

 では権利者団体側の難癖か、というのもちょっと短絡的である。そもそも「その創造に関与したクリエーターが、適正な対価を得られる環境を実現すること。」という方向性は紛れもなく正しい。おそらくこれに想定されていたのは、業界の慣習を改めて利益分配のあり方や権利の持ち方を見直すとか、補償金とは別のシステムを作って権利者へダイレクトに還元するとか、そういうことであろう。しかし現段階で、そんな手を誰も何も打ってきていない。

 例えば放送であれば、制作会社やポストプロダクションからの搾取構造などもデジコン委員会では明らかになってきており、それに対しての早急な対策が必要だ。強いて例を挙げれば、先日公取委が放送への包括契約に関してJASRACに立ち入り調査をした例があるが、ダビング10開始時期とのバランスで考えると、業界にメスを入れるタイミングとしては遅い。

 つまり「適正な対価を得られる環境」として実動しているシステムは、現状、補償金制度しかないんである。しかしその補償金制度も、音楽家・演奏家などには椎名和夫委員らの頑張りで報われてきているのだろうが、映像制作者に対してちゃんと機能しているとは言い難い。ネットではさんざん「IT技術を使って直接還元できるシステム」が夢想されてきたが、現実社会は1ミリメートルもそんな方向に動いちゃいない。それが現実だ。

 一方でJEITA側は、「そもそも損害がないのだから補償する必要がない」としている。これはこれまでのDRMと補償金のハッキリしない関係に、明確に意見を主張したと言える。しかしそうなると、第4次中間答申でうたった「適正な対価を得られる環境」作りに向けては、誰が何をどうすればいいのだろうか。

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