内部「統制」って縛ることなの!?ビジネスシーンで気になる法律問題(2/3 ページ)

» 2007年03月02日 12時21分 公開
[情報ネットワーク法学会, 高橋郁夫,ITmedia]

法律と内部統制

こはと ちょっと待って。というと、会社法の改正で、新たに内部統制が決められたわけではない――ということですね。

内田 実は以前から裁判で、そのような体制構築の取締役の義務については議論がなされていました。実際の判決例では「大和銀行事件第一審判決」「神戸製鋼所総会屋利益供与株主代表訴訟での和解勧告」が有名です。2006年来、「ダスキン事件」の一連の判決があって、報道もなされています。

大和銀行事件第一審判決とは?

 大和銀行事件第一審判決(大阪地判・平成12年9月20日)は、1)内部統制システムを整備する必要があり、2)会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱を、取締役会で決定すること、3)業務執行を担当する代表取締役と業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定すべき善管注意義務と忠実義務を負う――などとした上で、一部の被告らの任務懈怠を認めている。

神戸製鋼所の株主代表訴訟の和解とは?

 「神戸製鋼所のような大企業の場合、職務の分担が進んでいるため、ほかの取締役や従業員全員の動静を正確に把握することは事実上不可能。そのため取締役は、商法上固く禁じられている利益供与のような違法行為はもとより、大会社における厳格な企業会計規制をないがしろにする裏金捻出などの行為が社内で行われないよう、内部統制システムを構築すべき法律上の義務がある」と述べて和解勧告をなしているのである(平成14年4月5日)。

ダスキン事件とは

「ミスタードーナツ」が2000年5月から12月まで、国内では使用が認められていない酸化防止剤が混入した肉まん約1300万個を全国で販売した事件。担当役員らが取引先に実質的な「口止め工作」を行い、さらに、不祥事が報告された後、調査が開始されたあとも主要役員は「不祥事を公表しない」と方針を決定。その後に起こされた株主代表訴訟では、取締役会による善管注意義務の怠りなどが指摘された。


内田 でも、先生が気にしているというか、異論を持っているところって何でしょうかね。

高橋 株式会社という制度は、経営陣が株主からの財産をいわば託されて運用していくというもの。であれば、本質的に「内部統制」のシステムが備わっていなければならないわけだ。これまでは、「内部統制はあるべき」という当然のことが看過されていたのではないか――ということが僕の異論だね。いわば「内部統制そもそも論」ということになるかな。

こはと そもそも論というと、まず定義からいうと「内部統制とは、企業がその業務を適正かつ効率的に遂行するために、社内に構築され、運用される体制及びプロセス」(経済産業省・リスク管理・内部統制に関する研究会「リスク新時代の内部統制〜リスクマネジメントと一体となって機能する内部統制の指針〜」)いうことですね。

内田 そして、そのような意識を前提に、会社法では、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」が取締役会の決議事項とされています(会社法362条4項6号)し、一方、いわゆる「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」では、「企業等の4つの目的(業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全)の達成のために企業内のすべての者によって遂行されるプロセス」と定義されていますね。

高橋 そうだね。でも、僕は組織体も人と同じで“健全な精神と健全な肉体”を目指しているはずで、その健全な肉体を作り上げていく日頃の活動が、「内部統制」だって説明している。難しい定義よりわかりやすいだろう。そして、事務処理の委任を受けているのであれば、報告義務があるわけだ(民法645条参照)から、株式会社においては、そのような義務が、取締役の事業報告および計算書類の内容の報告の義務に変身するし、特に公開会社では、財務報告の信頼性を確保すべき義務が重視されるようになるということかな。

「健全な肉体って、ウエイトトレーニングとかボディビルを連想させますね」(こはと)

こはと 健全な肉体って、ウエイトトレーニングとかボディビルを連想させますね。

高橋 そうだね。自分の体を整えていくことは、自信をもって人生を生きていくとか、困難を積極的に乗り越えていくという、すごくポジティブな側面がある。「No Pain,No Gain」とも言うしね。そこでの直接的な目標は「余分な脂肪を落として、筋肉をたくさん付けること」になる。トレーニングの過程で「ドーピングのようなルールに反することはしてはいけない」のは当たり前のことだし、体を鍛えたら、人に見てもらって評価してもらうこともあるだろうね。ボディビルディングのチャンピオンから、ハリウッドスターになって、州知事になった人もいるだろう。これらは、内部統制の目的とならべて説明ができそうだ。

内田 確かに、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の企業等の4つの目的と健康な体づくりを例にして考えるとわかりやすいですね。さしずめ現代社会では、企業活動を、CTスキャンかMRIして、その企業活動の健全性を確認しないといけないということなのでしょうか。

高橋 いいことを言うね。もっとも、さっきの例の4つの目的規定にしても、その目的が、みんな並列に規定されているというのは、やや問題かもしれないね。体づくりの例をとってみても、それらの目標が並列的ということはなさそうだということに気がつくのではないかな。法令遵守が、資本の効率的な運営というのと同じレベルの話であるというのは、すこし違和感を感じるしね。あと、資産の保全の観点から考えると、資産の活用の視点が落ちないかという問題も気になる。こうしたことが内部「統制」を何か「縛ること」に感じてしまう原因かもしれない。

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