オンラインゲーム大会が「ギャンブル」で摘発される可能性ビジネスシーンで気になる法律問題(1/2 ページ)

そもそも「オンラインギャンブルなんか事業化しないよ」という企業は多いだろう。しかし、たまたま開催したオンラインのゲーム大会も内容によってはギャンブルとして摘発される恐れもあるのだ――。

» 2007年03月16日 11時30分 公開
[情報ネットワーク法学会, 中崎尚,ITmedia]

 海外の業者がインターネット上で展開しているオンラインギャンブルは、日本国内からの利用が制限されていない状況が往々にして見られる。国内での利用者も相当数いるようだ。2006年に入ってからこのような海外のオンラインカジノを利用したインターネットカフェの摘発が相次ぎ、裁判例も出始めた。

 そもそも「ギャンブルサービスなんか提供しない」とおっしゃる企業も多いだろう。だが、オンラインゲームに目を転じてみると、ゲーム内通貨を賭け金にする古典的なギャンブルだけでなく、高額賞金を賭けたゲーム大会のようなものも想定し得る。バーチャルワールド内に企業の出展が増えれば、企業側もユーザー側もそのような場面に参加する機会も多くなるかもしれない。今回はオンラインギャンブルを例に、ビジネスでバーチャルワールド内の金銭を動かす場合に留意すべき事項を考えてみよう。

刑法が禁じる「賭博」とは?

 刑法が禁じる「賭博」とは何だろうか。改正前の刑法185条では「偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ……」と規定されていた。この規定が1995(平成7)年の刑法の平易化、つまりひらがなや口語体に改める際に、専門家以外が読んでも分かり難いからという理由で修正され、「賭博」を定義するフレーズが削られてしまった。もっとも現在でも、削られたフレーズの解釈を巡って積み重ねられてきた議論を参照する必要があるのは変わりがない。

現金に換金できないオンライン通貨が賞金でも……

 「一時の娯楽に供する物」の範囲に収まるかどうかが問題だが、判断は少々難しい。「オンライン通貨」をオンラインゲーム内でのみ使用可能な「ポイント」であり、公式には換金手段が用意されていない場合であっても、考慮すべき要素が多いのだ。

 まず、挙げられるのは、公式には換金手段が用意されておらず、規約上でも換金が禁止されているようなオンラインゲームの場合でも、RMTのブローカーのサイトが多数存在している。ごく一般的なユーザーもRMTを日常的に行っているような状況では、事実上、換金性が備わっていると指摘される恐れがある。

 次に、オンラインゲーム内での使用に限られる場合、そのオンラインゲーム内に非常に多くの企業が出展していて、一大ショッピングモールのような機能をも果たすようになっていたりした場合には、「一時の娯楽に供する物」の枠には収まり切らなくなる可能性もあるのだ。


高額賞金のゲーム大会は要注意

1分で分かるキーポイント

  • 現実世界のカジノを再現する場合は、将来的に摘発の可能性あり
  • 高額賞金のゲーム大会は「賞金の出所」がポイント
  • オンラインギャンブルの取り締まり強化後、ゲーム内通貨やアイテムの現金取引が制限される可能性も
  • バーチャルワールドの運営側も出展する企業側もリスクを検討すべき
  • もちろん、景表法の規制も念頭におくこと

 バーチャルワールド内でビジネスを行う場合に、どのような点に気を配るべきだろうか。言うまでもないが、典型的なギャンブルには相応のリスクがあることは十二分に認識しておく必要がある。バーチャルワールド内で、あたかも現実世界のカジノを再現するように、ゲーム内通貨を賭け金にしたギャンブルが展開された場合、時期は将来にずれ込むかもしれないが、日本国内でも摘発の方向で検討が進む可能性は高いと思われる。

 次に、典型的なギャンブルではなく、高額賞金を賭けて成績を競うゲーム大会はどうだろうか。現実にもこのような大会はしばしば開催されているが、オンラインでは遠隔地からも容易に参加できるため、より頻繁に開催される可能性があるだろう。この手の大会を主催する事業者は、賭博に該当しないよう配慮することが欠かせない。

 ポイントの1つは「賞金の出所」である。つまり、大会参加者の支払う参加費などで賄うのではなく、運営側が全く個別に用意した資金から支払われるべき――ということなのだ。すべての事例にこの基準が適用されているかは不明確な部分も残るが、少なくともリスクを最小限にするという観点から、ビジネスに携わる者としては意識しておくべきことだろう。

 もう1つ、これは法律上というより局所的な行政上のリスクかもしれないが、ギャンブルそのものでなくても、ギャンブルに関連していると外国当局が判断した結果、予想外の規制が突然課されて、外国向けのビジネスの見込みがたたなくなる可能性も考えられる。

 例えば中国では、オンラインギャンブルの取り締まり強化の方針が打ち出された直後、今度はゲーム内通貨やアイテムの現金取引そのものに制限をかける予定がある、とも伝えられた。オンラインゲーム大国である韓国を含め、ゲーム内通貨の地位は非常に流動的と言わざるを得ず、本格的に参入する場合、相応のビジネスリスクがあることは認識しておくべきだろう。

 今後、日本国内のユーザー向けバーチャルワールド内に、企業が積極的に出展することが予想される。バーチャルワールドは一見、現実世界から切り離された異空間のような錯覚に陥りやすいが、現実の資金の動きの裏付けは欠かせないし、企業が経済活動を展開する場合はなおさらである。バーチャルワールド自体を運営する側も個別に出展する企業側も、バーチャルワールド特有のリスクを念頭に慎重に検討することが求められる。

景表法をクリアしても刑法上の賭博に当たる恐れも

 景表法(不当景品類及び不当表示防止法)と刑法は、保護すべき対象も目的も異なる。そのため、オンラインゲームの賞金についても、景表法では賞金額の規制が中心となっており、賞金の出所には特に言及していない。仮に賞金額が景表法の規制をクリアしていたとしても、その出所次第によって、刑法上の賭博に該当する可能性も理論的には生じ得る。


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