たかが名刺、されど名刺【初級編】樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

「新人だから受け取る名刺が少ない」と侮ってはいけない。新人の時から名刺管理をきちんとしておくこと。名刺の扱いの工夫を紹介しよう。

» 2007年05月22日 11時09分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 「おーい、新人の名刺できているか」と確認するのが、新人が着任する日の筆者の役割だった。何年も同じ部で仕事をしてきた庶務担当は、私が新人たちを着任した日に大切な客先に挨拶に連れて行くことを知っていた。

 「はい、できています」「ようし、じゃ、でかけよう」。名刺がないと、いくら着任の日だからといって客先の訪問で格好が付かない。逆に、着任の日でも名刺を持っているということは、若干なりとも会社としての手際の良さを相手に印象付けることができる。

名刺切れを防ぐ収納法

 私の名刺の扱いは長年の経験から会得したものだ。会社の私のデスクの引き出しには、常に名刺が1箱半(約150枚)あった。残りの名刺量が1箱半以下になると、新しい名刺を印刷してもらうよう手配を頼んだ。

 机の引き出しとは別に、名刺1箱を丸々自宅にも置いていた。さらにもう1箱を、客先を訪問に使うキャスター付きのフライトバッグのポケットに忍ばせていた。

 100枚入る名刺入れには20枚ほど入れておく。あとの80枚分は、自分のではなく重要顧客の名刺を持ち歩く。“あかさたな”で段差を付けて区分しておけば確認のため取り出す時も簡単だ。ただし最近は、個人保護法を遵守するため、顧客の名刺は厳重に管理するようセキュリティポリシーを決めている企業もあると聞く。重要顧客の名刺を持ち歩くのは利便性が高いが、自社のセキュリティポリシーを確認するようにしたい。

 さらに財布にも20枚。A5サイズ20穴ファイルノートのファスナーポケットにも5枚程度。背広の胸ポケットにも5枚ほど忍ばせる。

樋口流名刺収納法
収納場所 保管枚数
デスク 1箱半(約150枚)
自宅 1箱(100枚)
カバン 1箱(100枚)
名刺入れ 20枚(残り80枚分は重要顧客の名刺を入れておく)
財布 20枚
ファイルノートのポケット 5枚
背広の胸ポケット 5枚
合計 約400枚

 こうしておけば、名刺で慌てることがないはずだが、それでも長いビジネス人生、名刺を切らすことがあるのだ。名刺にこだわるのは、やはり名刺が情報収集の大切な出発点や芯になるからだ。私たちは顔を見ただけでは、数日を待たずして忘れてしまう。いただいた名刺に、そっと小さくシャーペンで、日付を書くことも良い(書けないことも多いが)。

 本誌読者にとっては当たり前だが、メールアドレスは大事だ。メールアドレスをしっかり押さえておけば、顧客訪問後、喫茶店からでもお礼と面談時の課題に最善を尽くしますという内容をメールで送信できるからだ。

相手が名刺を切らしていたら?

 さて、筆者の発明は「あなたの名刺」である。面談相手に名刺を渡したら、「あっ、今、名刺を持っていないんですが……」といわれることが時々ある。思わぬところで出会ったり、急な紹介を受けたら、相手がカバンも持っていないこともあって名刺が切れていた。新しい部署に配置された直後で名刺がなかった。地方公務員や学校の教員は名刺を作るのが自前だから用意していないこともある。

 相手が「すみません」と言っても、私は「あなたの名刺があります」、事前に用意したカードを渡すのである。これが「あなたの名刺」なのだ。

「あなたの名刺」に書いておいた項目

名前(Name)

所属(Company)

住所(Address)

電話(Telephone)

メールアドレス(E-mail)


 これを渡すと、ほとんどの方は驚いて「なるほど、これは良いなあ」と唸る。本当は、メールアドレスと電話番号さえあれば、住所はいらないほどだ。住所などを全部手書きさせるのは時間もかかるので、忙しい時には「住所は書かなくて結構です」という。財布に10枚程度、名刺入れに5枚程度の「あなたの名刺」を入れているが、日本国内だけでなく海外でも有効だ。海外は特にビジネスマンでも名刺を持たない人が結構いるからである。裏面を非常時のメモに使うこともある。

 海外では相手の名刺をもらったり、「あなたの名刺」に書いてもらったら、まずその名刺をデジタルカメラで接写した。そして、断った上で相手の顔をデジカメに収めたものだ。「私の脳みそは、本当にすぐ忘れてしまう揮発性の記憶装置なんです」と、照れながら写真を撮っていた。このデジカメ情報の重要性は途方もない。面談後、メールアドレスには、必ずその写真を添付で送ってお礼を言った。

 「あなたの名刺」も普通にいただく名刺も、帰社後は名刺スキャナに掛ける。筆者の部署ではコクヨの「BizCard Brain」を使っていた。「あなたの名刺」も同じように名刺スキャナに読ませる。BizCard BrainにはOCR機能もあるから、読み取った画像をテキストに変換してくれる。手書きの場合は読取精度が若干低いので、うまく読み取れない場合は画面に表示されるJPG画像を見ながら手打ちする。名刺そのものは、キングジムの「名刺ホルダーS型 88N」に入れている。名刺は何千枚あるか分からないが、年に1度は“棚卸し”して、不要な名刺を廃棄処分しよう。

 「新人だから受け取る名刺が少ない」と侮ってはいけない。それに、新人だって相手に渡す名刺が少ないことはない。新人の時から名刺管理をきちんとしておくこと。名刺の扱いがビジネスフローの一部になるよう工夫したい。

今回の教訓

自分の名刺は持ってて当たり前。相手の名刺も“用意”すべし。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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