「サクッと」ってどんな日本語? 「お休みをいただいております」ってどこが日本語としておかしい? 言葉で人を動かすための“生きるための日本語”を学ぶ一冊。
北原 保雄『問題な日本語その3 』(大修館書店刊)
「さくさく」は、霜柱を踏んだり、ウエハースを食べたり、かき氷を崩したりするときの擬音語から擬態語に転じたものでしょう。あるかなきかの堅さでほんの小さな抵抗を感じさせるものを、圧倒的な力で崩していく感覚です。軟らかすぎるプリンは「サクッと」行きませんし、草加せんべいも堅すぎます。
こういった感覚が多くの人に共有できたので、「さくさく」「さくっと」の擬態語用法が広がったと考えられます。(p.17)
『明鏡国語辞典』の編集チームによるシリーズ3作目。多くの人が知らず知らずのうちに誤用している“問題な”日本語の事例を1つずつ取り上げ、次のような項目に沿って解説する。
例えば、次のような言葉が取り上げられている。
いずれも普段よく耳にする言葉ばかりではないだろうか。あるいはあなた自身が使っている言葉もあるかもしれない。もちろん、言葉は時代の波に洗われていくものなので、完全に誤用としてつるし上げるのではなく、「こういうふうに言い換える方法もある」といった代案を示すこともある。
例えば「お休みをいただいております」については次の通り。
「休みを与えてくれたわけでもない取引先の人に、「山田は本日お休みをいただいております」と恩恵を受けているかのように言うのは適切ではありません。「本日休みをとっております」のように、すっきりと言い切ったほうがよいでしょう。(p.65)」
このような、日頃から漠然と抱いているであろう、日本語にまつわるちょっとした疑問に答えてくれるのが本書の主たる“効能”である。だが、解決できる問題はそれだけにとどまらない。
誤用ではないものの、誤解を招きうる表現という問題がそれだ。冒頭に引用したのは「さくっと」の項にある解説である。「霜柱」や「ウエハース」といった身近で具体的なものを引き合いに出しながら、巧みに「さくっと」のニュアンスを描き出している。
このような日本語は一朝一夕では身につかないかもしれないが、身につけるための方法はいくつかある。その1つは、モデルとなる文章に接する機会を増やすことだ。そこで、本書の解説部分を声を出して音読することをお勧めしたい。
特に仕事においては、正しいかどうかもさることながら、自分が発する言葉で思い通りに相手を動かすことができるかどうかがカギとなる。打ち合わせはもちろん、電話やプレゼンなど口頭でコミュニケーションを取るシーンは少なくない。そのような時にスムーズに言葉を出せるようになる上で、音読は有効なトレーニングになる。普段から“楽器”を馴(鳴)らして錆びつかせないようにするわけだ。
BOOK DATA | |
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タイトル: | 問題な日本語その3 |
著者: | 北原保雄編著 |
出版元: | グラフ社刊 |
価格: | 840円 |
読書環境: | ×書斎でじっくり △カフェでまったり ◎通勤でさらっと |
こんな人にお勧め: | 言いたいことが相手にうまく伝わらずに困っている人。 |
文法的に正しい日本語は習ってきたかもしれないが、自分がいいたいことを誤解なく伝えるための日本語、もっといえば、言葉で人を動かすための“生きるための日本語”は社会に出て実地に学んでいくほかない。本書は、その学びのスピードを加速させる上で役に立つはずだ。
なお、本シリーズの内容を収録したタイピングソフト「たたいて気づく『問題な日本語』」を紹介したい。画面に出題されるクイズに対して、答えをタイプしていくことで、身体で覚えることができる。10問回答するごとに成績が更新されるため、楽しく学習できるだろう。
「人を動かす言葉力」を見直すべく、この年末年始にじっくりと取り組んでみてはいかがだろうか。
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