レビュー
» 2008年02月19日 23時00分 UPDATE

5分で読むビジネス書:関心テーマを“インフルエンサー”が広めるマーケティング――『その1人が30万人を動かす!』

消費者に影響を与える存在――インフルエンサー抜きに、マーケティングを実行できなくなってきた。影響力を味方につけるインフルエンサー・マーケティングとは?

[郷好文,ITmedia]
表紙

本田 哲也
『その1人が30万人を動かす! 影響力を味方につけるインフルエンサー・マーケティング』(東洋経済新報社刊)

 シナジーを効果的に起こすには、情報を流す順番が大切だ。3つのインフルエンサーに同時に情報を流すのは、実は有効ではない。いくつかのパターンがあるが、まずプロフェッショナル・インフルエンサーに情報を提供するのが王道だ。

 専門家が客観的な視点で調査や実験を行い、世論の地ならしを行う。前述のパンパースを例に取れば、「日本の赤ちゃんは夜更かし」「睡眠不足は赤ちゃんの成長に悪影響を及ぼす」などの状況があることを、専門的な立場から語ってもらう。

 次に、マスメディアによる報道へ軸足を移す。プロフェッショナル・インフルエンサーによる調査報告を、メディアを通じて多くの人に届けることで、一般に対する啓発を行う。続いて個人インフルエンサーを動かし、親近感を醸成する。(P.50)


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 私は本を汚く読むクチだ。“汚く”とは線をバァっと引いたり、書き込みをしたり、端を折る。そうする本とそうしない本がある。今回はネットのクチコミの本か……と“奇麗に”読みはじめた。“関心テーマ”のところで付せん紙を張り、“インフルエンサー”の解説のところで単なるクチコミではないなと気づき、付せん紙をペンに変えた――。

 読み手の前置き文はこのくらいにしよう。日本ではなじみの薄い“インフルエンサー・マーケティング”に取り組んできた著者が、企業・消費者・商品の真ん中にある“関心テーマ”を動かす“インフルエンサー”に焦点をあて、これからのマーケティングは“インフルエンサーを動かす方法論に傾斜すべし”と主張するのが本書だ。

 まえがきに、マーケティング活動とは「生みだされたものをうまく伝え、手にしてもらい、消費してもらうための繰り返し作業」とあるのも印象的だ。マーケティングを説明するとき「4P」「セグメンテーション」「ターゲティング」と言われるが、その前に根本的に考えることがある! と常々思っていたことを、著者は2行半にしてくれた。マーケティングの真ん中にあるのは関心テーマである。消費者の心にハマる関心テーマを起点に、ネーミングやスローガンへの語形変化、広告媒体表現、プロモーションイベント体験へ広げていく。

 その関心テーマを引っ張るエンジンが、“インフルエンサー”。インフルエンサーには3つのタイプがあるとする。

  • マスメディア:テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・ネットメディア。
    関心テーマを世に広く知らしめる波及力と社会的な影響力が特徴。
  • プロフェッショナル・インフルエンサー:その道の専門家やセレブ、タレントなど。
    関心テーマを生みだし、その疑問に答えを出す。中立性と高度な専門知識を持つ。
  • 個人インフルエンサー:カリスマブロガーに代表される情報発信力をもつ人々。
    1カ月に100万レベルのPVのブログを書く人もいる。その親近感に引きつけられる。

 インフルエンサーをどう動かすか。消費者に自発的に動いてもらうため、関心テーマを掘り下げるアプローチをすべし。P&Gパンパース事例が代表例だ。

  • 売るモノ=「赤ちゃんの眠りをさまたげない紙おむつ新製品」
  • 広めたい関心テーマ=「赤ちゃんの眠りをさまたげない」
  • ターゲット=「妊娠6カ月〜月齢18カ月の赤ちゃんを持つママ」

 この例では、キー・インフルエンサーとして「子どもの早起きをすすめる会」を主催する“カリスマ小児科医”を起用し、関心テーマを掘り下げるため「赤ちゃんの睡眠実態把握の国際的な調査」や「睡眠に関するセミナー」を実施。調査結果をマスメディア・インフルエンサー(テレビ・新聞などのメディア)にプレスリリースとして流し、個人インフルエンサー(ママ・ブロガー、全国の小児科医ら)がそれをさらに取り上げ、ターゲットに浸透を図った。

 クチコミやCGM(Consumer Generated Media=ブログやSNSなど消費者発信型メディア)だけでなく、総合的かつ戦略的にターゲットの“気持ちを動かす”のがインフルエンサー・マーケティング。ニンテンドーDSの漢検事例でも、“漢字力の危機”調査をメディアにリリースし、ブログパーツの無料配布、ブロガーイベントと広告の組み合わせ、発売日の店頭POPまで一貫させる。関心テーマ=「オレも最近漢字ヤバいな……」という意識を盛り上げた。

 純な私は人から薦められて買い物をしたことがたくさんある。薦めがハマるときは、薦める人が私の関心事(好みや解決したいこと)にズバリと切り込んでくるときだ。リアルな知人でも、Amazonの書評者でも同じ。関心事のツボに四方八方から迫られると財布は容易に開く。

BOOK DATA
タイトル: その1人が30万人を動かす! 影響力を味方につけるインフルエンサー・マーケティング
著者: 本田哲也著
出版元: 東洋経済新報社刊
価格: 1890円
読書環境: ◎書斎でじっくり
○カフェでまったり
△通勤でさらっと
こんな人にお勧め: 仕事に限界を感じているマーケッター、PR担当、広告業従事者

 ただ企業のやらせはいただけない。本書でも“やらせバレの炎上”が紹介されているが、ヒモ付き専門家との共同作業、境目はキワどい。「共感」「関心事」「参画」の姿勢こそ必要と説く。誠実で中立なインフルエンサー・マーケティングをどこまで貫けるか、実務上の課題はそこだろう。

 このインフルエンサー・マーケティング、広告よりもROI(費用対効果)が良いという調査結果も紹介されているように、大企業だけでなく中小企業でも効果が出せる。課題は「インフルエンサー・マーケッター」というWeb・PR・広告などを顧客視点で総合的に扱える人材が少ないこと。新しい分野ゆえ可能性は広く大きい。

 この書評を読んだあなた、インフルエンサー・マーケティングをやりたいと思いましたか? つまり……私はこの本のインフルエンサーなのである。

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