「子育てマイアルバム」を作ったのは元“子連れニート”――荒木稔さんひとりで作るネットサービス(1/2 ページ)

わが子の誕生が人生を見つめ直すきっかけになり、一時は“子連れニート”の道を選んだ荒木さん。親になった経験を生かし、やりたいことの1つを実現したものが、ケータイを使って子供の成長を見守ることができる「子育てマイアルバム」というサービスだ。そんな荒木さんにサービスを開始するまでの経緯と現在、そして今後の展望について聞いた。

» 2008年03月19日 14時37分 公開
[田口元,ITmedia]

 ひとりで作るネットサービス第24回は、夫婦がケータイから簡単に使える日記ツール「子育てマイアルバム」を開発している荒木稔さん(31)に話を聞いた。今までネットの恩恵を受けていなかった人の生活を、ケータイを使ってもっと便利にしたい――そう考える荒木さんが目指すサービスはどういったものだろうか。

独立を目指し辞職、“子連れニート”生活へ

 「親が来るのが分かったら、すぐに家から出なくちゃいけませんでした」。独立したはいいが、世間は厳しかった。5年間勤めあげたシステム会社を飛び出した荒木さんが、その後3カ月間経験したのは“子連れニート”。仕事がもらえない日々が続いた。子供が生まれたばかりだったので、親には無職になったことをどうしても言えない。孫の顔を見に来た親には「仕事に行ってくるから」と、ウソをついて家を出るしかなかった。

 大学卒業後に就職したその企業では、荒木さんのチームは「消防士」と呼ばれていた。プロジェクトがトラブルを起こしたときに駆り出される「火消し部隊」だったからだ。午前3時、4時の帰宅は当たり前。殺人的なスケジュールをこなし、納品したと思ったらまた次のプロジェクトへ、というあわただしい日々が続いた。

 激しい業務をこなしながら、「このままでいいのだろうか」という思いが募るようになった。今の自分はやりたいことができているだろうか……。自問するたびに、焦燥感が荒木さんをさいなんだ。

 「よし、思い切って独立しよう」。そう思ったのが2005年の夏。きっかけは当時生まれたばかりの娘だった。「子供は親の背中を見て育ちます。やりたいことをやっている自分を見てほしかったのです」。会社の仕事では、業務用の基幹システムを手がけることが多かったという荒木さん。納品した後は、そのシステムがどう使われているか、ユーザーが何を思ったのかを知ることができなかった。「もっとユーザーの顔が見える位置に行きたい」。それが荒木さんのやりたいことだった。

身近なケータイを使ってネットの恩恵を

 「勢いで飛び出してみましたが、やっぱりどこの馬の骨とも分からない奴に仕事をくれる人はいませんでしたね」。独立当時の思い出を荒木さんは苦笑しながらそう語る。何かしなくちゃ、という気持ちばかりが空回りしていた。職もなく、どこから手をつけていいか分からなかった荒木さんは、子供の笑顔を見るたびなんともいえない気持ちに襲われた。「あれは、なんというのでしょうかね……焦燥感? それとも違うと思うのですが、とにかく子供の顔を見るたびに胸が締め付けられるようでした。精神的に、とてもきつかったです」

 職がないまま3カ月が過ぎようとしていた。そんなとき、ちょうど仕事を流してくれるようになったのが前職の先輩だった。企業の社内システムを作る仕事などを手がけるうちに、なんとか生活できるようになっていった。少し余裕が出てくると、本来やりたかった「ユーザーの顔が見える仕事」ができないか、と周りを見渡せるようになった。

 当時、Webの技術が盛り上がりつつあった。ずっとJavaを手がけていた荒木さんだったが、もっとスピーディーにアイデアを形にするため、PHPとMySQLを習得した。ただ、Web周りではたくさんの人がすでに面白いことを手がけていた。自分には何ができるだろうか……。突き詰めて考えた先に「ケータイ」があった。

 「Twitterのような新しいネットサービスが大好きなんです。だからこその楽しさや便利さを、もっと普通の人に届けたいなと考えています」。普通の人が使っているものといえば、やはりケータイ。今までPCが使えなかったせいでネットの恩恵を受けることができなかった人たちが、ケータイを使うことによってネットの恩恵を受けられるようになれば――と、荒木さんは思っている。

動作確認のためにそろえたケータイの一部。左が「au W51SA」、右が「Softbank 911T」。そのほか「Disney Mobile DM001SH」などで確認

 ケータイに力を入れていこう。そう決心した荒木さんは、仕事の合間を縫ってケータイの技術を調べ上げた。苦労したのは、やはり通信キャリア間での仕様の違い。キャリアごとに動作が違うため、細かいノウハウを地道に積み重ねるしかなかった。テキストだけのサイトだったらそれほど難しくないが、認証させたり絵文字を使ったりすると、コードはグッと複雑になった。PC上ではテストが難しいので、動作確認のためにすべてのキャリアのケータイをそろえた。サーバにいちいちコードをアップしてケータイで実際にアクセスして、検証する日々が続いた。

 そうしているうちにケータイがらみの仕事も入ってくるようになった。今手がけているのは地域向けのコミュニティサイト。勉強会で知り合った人から依頼され、ケータイで使えるQ&Aサイトを作り上げた。開発には3カ月をかけ、現在はシステム運用を請け負っている。毎日ユーザーからなんらかのメールが届くようになったのが何よりもうれしかった。「やっとユーザーの前に立てたかな、という実感があります」。荒木さんはうれしそうにそう話す。

 このサービスを作る際には、企画段階から自由に意見を言うことができた。「依頼してくれた人が理解のある人で、ほぼ任せてくれたので、そこが良かったですね」。ただ、やはり自分だけでサービスを作ってみたい、と強く思うようになっていた。

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