今度という今度はダメかもしれない大口兄弟の伝説(1/2 ページ)

マザーとクオーターの「仲良しチーム」とロバさんとオタクの「ロバさんチーム」は、順調に契約を取ってきている。だが、大企業ばかり狙う「大口兄弟」の契約が伸びない。「このままでは」――思い悩む吉田和人であった。

» 2008年12月03日 12時00分 公開
[森川滋之,ITmedia]

あらすじ

 ビジネス小説「奇跡の無名人たち」第1部の続編「大口兄弟の伝説」――。営業本部に呼び出された吉田和人は、田島部長から「営業所は廃止の方向で検討している」と告げられ絶句。理由は「契約本数が70位以内に入っていないから」だった。存続の条件は翌月の営業コンテストで全国1位になること。ひとまず目標を達した今月の契約を来月に回してコンテストに備える和人であった――。


 7月になったが、梅雨は相変わらずだった。安普請のC市営業所は、湿気とかび臭さでムッとしていた。「雨でも外回りの方がいいよね」。アネゴの不満にイケメンが無言でうなづく。

 和人も同感だったが、部屋の湿気と臭いのせいではなかった。そのほうが気が楽だと思ったのだった。7月の第1週が終わったときの契約本数では、全国で12位だった。先月終わりの分の契約を今月に回したのも効いていた。どこの営業所も思ったより目標達成が難しいらしく、来月に回す余裕があまりなかったようだ。

 本部から言われたやり方をそのままやっていたら難しいだろうな。和人はそう思った。先月分を回す余裕があっただけ、C市営業所は実力がついてきたということである。しかし、本部は最初の2カ月の出足と、自分たちの指示を無視したことにこだわり、C市営業所をつぶそうとしている。営業とは何だろう――和人はガラにもなく哲学的な思いにとらわれていた。

 さて、和人が営業所でヒマそうにしているのには理由がある。マザーとクオーターの「仲良しチーム」(今ではすっかり法人向け営業になじんでいる)とロバさんとオタクの「ロバさんチーム」は、順調に契約を取ってきている。以前は、彼らと同行していたものだったが、今では和人の同行が必要ないぐらい「しくみ」として回るようになってしまったのだ。

 その「しくみ」とはこうだ。

 イケメンが天才ともいえるアポ取り技術を発揮し、1週間先までのスケジュールをすぐに埋めてくれる。2つのチームは、訪問先でひたすらお客の言うことを聞き、次回のアポを取り、宿題を持ち帰る。宿題といっても、その場で答えられることがほとんどなのだが、わざと持ち帰るのだ。

 持ち帰ると、ジンジとチェッカーが作ってくれた膨大な資料集がある。仮に本当に分からなくて持ち帰った宿題があっても、ジンジが本部の技術陣のもっとも適切な人間を選んでメールで質問してくれる。その回答をチェッカーがまた資料化する。

 次回の訪問では、膨大な資料を持っていくことになるわけだ。客は、資料の厚さを見ただけで圧倒される。そして、ここまで調べてくれたのかと感動する。ふだん取引先にぞんざいな扱いを受けている中小企業の担当者や経営者ほど感激する。そもそも最初の訪問のときに、ひたすら自分の話を聞いてくれただけでも実は喜んでいたりするのだ。

 初回訪問はひたすらヒアリング、2回目に圧倒的な量の資料持参という「2ステップ営業方式」はC市とその付近の町の中小企業の経営者や担当者にウケが良く、仲良しチームとロバさんチームは、順調に契約を重ねているわけだ。この2チームに関して、わざわざ和人が出向く必要はほとんどない。

 問題は、大口兄弟のタカシとショージである。

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