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» 2016年01月18日 08時00分 UPDATE

池田直渡「週刊モータージャーナル」:新型プリウス 名家の長男の成長 (1/4)

いよいよ市場投入となったトヨタのハイブリッドカー、新型プリウスをテスト走行した。わずか数時間の試乗だったが、さまざまな点で従来モデルとの違いを実感することとなった。

[池田直渡,ITmedia]

 プリウスがモデルチェンジしたことは、既に多くの方がご存じだと思う。今度のプリウスは先代と比べてはっきりと変わっている。

今回試乗した新型プリウス。横浜〜川崎の高速道路をテスト走行した 今回試乗した新型プリウス。横浜〜川崎の高速道路をテスト走行した

燃費に特化した特殊なクルマ

 まず、先代のプリウスがどういうクルマだったのかという点から話を始めなくてはならないだろう。一言でいえば、これまでのプリウスは「燃費のレコードブレーカー」だった。もっと分かりやすく言えば、プリウスは燃費の世界チャンピオンの座を防衛するための極めて特殊なクルマだった。

 それは食べ物で言えば、アスリートが競技に勝てる肉体を作り上げるためのプロテインのようなもの。プロテインを指して「食べ物としてどうか?」と尋ねられても困る。それはそれが必要な人にとっては極めて重要な栄養素であり、なくてはならないものだが、一般的な食べ物としては評価のしようがない。

 トヨタ自身もそれは認めており、先代プリウスについて燃費では高い評価を得てきたが、走りの面では批判も多く、それは傾聴に値するものだったと言っている。

 ここで1つ書いておかなくてはならないのは、京都議定書以降の自動車産業にとって、燃費を良くすることは喫緊の社会的使命であったことだ。だからその全てをトヨタにおっかぶせて糾弾するのは大人の態度ではないと思う。しかし、一方で「良いクルマ」であることを相当に犠牲にしてその燃費が達成されていたのもまた動かしがたい事実である。

速度制御が出来る幸福

 プリウスにおいて、燃費のために最も犠牲になっていたのは速度制御である。空いた道路を走っていて先行車に追いつく、近づきつつアクセルをオフにする。昔のクルマならここでエンジンブレーキが効いて減速するが、プリウスはそれが極めて弱い。それはアクセルオフにしたとき、グライダーのように滑空することでできる限り速度を落とさないためである。狙いは燃費の向上だ。これを「コースティング」と言う。

 ドライバーにとって、決して気持ちの良い制御ではないが、燃費を向上させなくてはならない今、このコースティングを止めろとは言えない。コースティングの特性はほぼ一定なので、速度差に合わせたアクセルオフのタイミングは習得できる。上手くやれば、先行車との車間が詰まりながら徐々に速度がそろっていく。

 しかし問題はこの先にある。速度が逆転して先行車との車間距離が伸び始めたとき、アクセルをじわっと踏んでもほとんど加速しないのだ。仕方なくアクセルを徐々に踏み足していくが、それでも加速がついてこない。ドライバーは経験上、この時アクセルを大きく踏み込めばキックダウンしてエンジンが吹き上がり、強い加速が起きることを知っているからそれを回避したい。そこまでの強力な加速は求めていない場面なのだ。

 だからこそアクセルの踏み込み量を探りながら一生懸命調整して、何とか今のギヤ比を保ったままエンジンのトルクを少しだけ増やして穏やかな加速に持っていこうとするのだが、パワートレインが全く言うことを聞かない。ドライバーの命令より燃費を良くすることの方が優先とばかりに、頼んでもいない妙なエンジン制御を続けるのだ。

 実は、プリウスにはエンジンのコントロールを行うコンピュータのほかにハイブリッドシステムのコントロールを行うコンピュータが搭載されており、ドライバーの操作がどれくらいのトルク要求をしているかを判断して、エンジンとモーターを協調制御して出力を決めるようになっている。どうもこのトルク要求の予測がとんちんかんなのか、でなければ「正しくはこうあるべきである」というドライバーの意思より優先される強いルールが存在しているか、どちらかの様子だ。いずれにしてもドライバーの要求するトルクが出てこない。

 アクセルを踏んでいるのに、あるいは、さらに踏み足しているのに反応が来るか来ないかよく分からない状況は運転中に嫌なストレスとなる。ドライバーは自然にこのストレスを避けようとするので、車間距離が大きく開いてからアクセルペダルをどーんと踏んで、キックダウンさせてでも自分のタイミングで加速を得ようとする。高速道路を走っていて、プリウスが前走車との車間を一定に維持できないのはこういう崩壊したアクセル特性のためである。当然こんな運転をしたら燃費も悪くなる。

 これが新型ではだいぶ改善された。アクセルとタイヤが直結したようなフレッシュな設定にはなっていないが、踏み足して不安になってくる前に、若干弱いながらもちゃんと加速が始まる。「スポーツカーじゃないんですから」と言われれば「まあそうだな」と思える。「穏やかだよねぇ」という言いわけで何とか済む範囲に入ってきた。絶対評価はともかく、新旧の改善幅としてはものすごく大きい。何しろアクセルで速度がコントロールできるようになったのだ。皮肉で書いているわけではない。今やこれができないクルマが結構あるから問題なのだ。

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