ついに「10速オートマ」の時代が始まる池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2016年02月29日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

高効率なエンジン回転数はピンポイント

 そもそもエンジンという機械は、回転数を自由に変えて運転するのに適していない。船だって飛行機だってエンジン回転は一定に保ってプロペラやスクリューの角度を変えることで速度を変えるものが多いのだ。ところがクルマの場合、変速機の性能のせいでそれができない。プロペラやスクリューは無段変速なのだが、自動車の変速機はそのほとんどが有段変速だ。歴史上何度か無段変速機が登場したことはあるのだが、大抵のものは効率面で問題があり淘汰されてきた。

 1980年代以降大きく注目されてきたCVT(Continuously Variable Transmission)はこの無段変速を実現するものとして自動車メーカー各社が期待をかけてきたが、構造的にレシオカバレッジを大きくできないのがネックになってきた。それでも近年、副変速機を付けることで最新のものではレシオカバレッジが7.28まで向上した。これを「よくやった」と見るか「まだまだ」と見るかは立場によって違うだろう。

ホンダのステップワゴンでは、小排気量ターボエンジンがCVTと組み合わされる ホンダのステップワゴンでは、小排気量ターボエンジンがCVTと組み合わされる

 さて、ここまで書いてきたレシオカバレッジ拡大の目的はエンジンの回転数を低く保つことなのだが、近年その重要性が増している。それは主にエンジン側の要求によるものだ。小排気量ターボの流行がその流れを加速させているのである。ターボとは、排気ガスで風車を回し、その力で同軸上にある対になる風車を回してエンジンに空気を余分に押し込む仕掛けである。空気を余分に入れられれば、燃料もたくさん入れられるので、排気量が大きくなったのと似たような効果がある。

 似たような、と書いたのは、同じとは言えないからだ。大排気量のエンジンは低速から高速まで、空気とガソリンが増えるのだが、ターボの場合、風車の容量設定によって効率良く空気と燃料を増やせる領域が限られる。単純化して言えば、小さなターボだとターボがボトルネックになって高速側で排気ガスの流路面積が足りなくなる。大きなターボだと低速側で流速が足りず、風車を十分に加速できない。

 吸排気の設計は、論理的にはすべからく特定回転数でのピンポイントチューニングなのだ。ターボはこれをさらに悪化させる。ターボを大小2つ付けるシーケンシャルターボはこのピンポイントを2つに増やす仕組みだし、低速の流速不足や風車の慣性質量によるレスポンス悪化をカバーしたい場合は低速側にスーパーチャージャーを使ったりする。しかしどんどん部品を付け足していけば大きく重くなり、結局のところ大排気量にした方がベターということになりかねない。そこに苦労しているのが現状だ。

 最近の小排気量ターボは、概念としては高速側を捨てることで成立している。つまり小排気量ターボは宿命的にパワーバンドが狭いのだ。大排気量エンジンの豊かな低速トルクをエミュレーションするために低回転での過給を重視し、高速側については、できる限り落とさないというコンセプトになっているのだ。具体的には2000rpm以下でのトルクを増やす仕組みであり、それを意図的に行っているのである。

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