「人間ピラミッド」と「過労死」の問題点が、似ている理由スピン経済の歩き方(1/5 ページ)

» 2016年03月29日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


 先週、スポーツ庁が運動会の「組体操」で安全性が確保できないようなら、実施を見送るよう通達をした。

 この背景には近年、運動会の「人間ピラミッド」や「タワー」と呼ばれる組体操が高層化して、事故が多発していることがある。文科省の調査では、昨年だけでも8592件の事故が起きており、46年間では9人死亡、脊椎損傷などで麻痺(まひ)などの障害が残った子どもも92人にのぼっているという。

 そう聞くと、運動会の花形競技がもうお目にかかれないのかと寂しい思いをされる方も多いかもしれないが、このような通達程度で、「人間ピラミッド」や「タワー」が全国の教育現場から消えることはない。多少下火になるかもしれないが、喉元すぎればなんとやらで復活をするはずだ。

 なにを根拠にと思うかもしれないが、過去にもよく似たケースがあった。「マスゲーム」(多くの人が集まって体操などを行なう集団遊技)だ。

 「え? あの北朝鮮の将軍様のためにやっているヤツ?」と驚く方もいるかもしれないが、実は我が国は、かの国に負けず劣らずの「マスゲーム大国」だったのだ。

 今でこそ北朝鮮の全体主義を紹介するような文脈で登場するマスゲームだが、高度経済成長期の日本人もあの「集団美」が大好きで、あまりにものめり込んだため、教育現場では人間ピラミッド同様に規模の「巨大化」が進んでいた。1957年に静岡で行われた第12回国体では、6000人の児童がマスゲームを披露。1965年の岐阜国体でも、幼稚園児から婦人まで177団体1万3300人がマスゲームを行った。

 その過熱ぶりに、役所から待ったがかかる。1990年4月、総務庁(当時)が「スポーツ振興対策に関する行政監察結果」を公表し、1960年から63年の国体の開催地となった3県で、マスゲームに参加した小中学校を調査したところ、授業時間中に演技練習が行われていたことで、年間の授業時数に届いていなかったことが明らかになったのだ。要は、授業よりもマスゲームの練習が優先されたのである。

近年、「人間ピラミッド」が高層化して、事故が多発している(出典:Wikipedia)
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