日産自動車の“二律背反”池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2016年04月11日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

日本向けのクルマはたった3台

 日産が新型車をある程度投入していたのは、2013年のデイズ、エクストレイル、スカイラインまで。しかし、既にこの年あたりから、本当の意味で日産のブランニューと言えるクルマは減っていた。軽自動車は既に日産と三菱の合弁会社であるNMKV社が開発生産しており、少なくとも帳簿上、日産は製品の供給を受けて販売のみ行うスタンスになる。

 かつての看板車種、スカイラインも北米をターゲットに開発したインフィニティQ50のおさがりで、驚くべきことにエンブレムもインフィニティのものを付けたまま売るというありさまだ。つまり、日産自身が設計当初から日本マーケットを視野に入れて開発したと思しきクルマはエクストレイルしかない。が、そのエクストレイルも本質的にはグローバル戦略車であって、日本マーケットのことがどこまで考慮されているかがよく分からない。

 翌2014年は、1月早々に中国をターゲットとしたティアナがモデルチェンジ。しかし、続くデイズ・ルークスはNMKV社、商用車のNVクリッパーはスズキのOEM。途中にエクストレイルのハイブリッドが挟まるが、これはあくまでも追加車種である。つまり2014年はティアナ1台だけ。そして2015年と2016年には、ついにブランニューが1台もデビューしなかった。

 結果を見れば、ここ3、4年で日産はまがりなりにも日本に向けたクルマをたった3台しか出していない。軽自動車への取り組みは別枠で評価するが、長年日産を支え続けてきたファンはそもそも軽自動車ユーザーではない。グローバル戦略が大事なのは分かるが、日本人としては「もっと日本の顧客にも意を払ってくれ」と言いたくなる。目に見える日産の国内企業活動はそれほど低下しているのだ。決算を見ない限り、日産の増収増益を知る術がない。

 では、これだけ国内活動が乏しいにもかかわらず、なぜ日産が増収増益なのかと言えば、新興国用モデルに特化しているからだ。日産はいまや新興国マーケットで外貨を稼いでくる構造に極端にシフトしているのである。

 そうなった直接の原因は日産自身の「ナンバーワンを目指さない」という宣言にあった。トヨタと覇を競う会社は必ず疲弊する。日産しかり、ホンダしかり、フォルクスワーゲンしかり。日産やホンダのように、ヒットモデルを出すたび、狙い撃ちのキラープロダクツをトヨタから送り込まれて、成長の芽をつぶされるという現実的な理由もあるだろうが、フォルクスワーゲンのように不正が発覚して自滅するというケースもある。

 もちろんトヨタ自身もリーマンショック、東日本大震災、タイの洪水、北米での大規模リコールなど社を揺るがす規模のトラブルに見舞われており、1社だけ神のご加護があるわけではない。結果を見る限り、トヨタには苦境を跳ね返す力があったと言うことだろう。降りかかる火の粉から身を守るサバイバル術のレベルが違うとしか考えようがない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.