7.5兆円を奪うのはどこか?2016年、電力自由化“春の陣”

“場外”で激化する関電VS. 大ガス 「奇手」を繰り出しはじめた関電の狙いとは(1/4 ページ)

» 2016年05月09日 08時00分 公開
[寺尾淳ITmedia]

値上げを繰り返した関電。原発再稼働で反撃できるはずだったが……

 「新電力に乗り換えて、アホみたいに値上げばっかししよる関電に仕返ししたるねん」

 そんな関西の人たちの“怨念”を吸い上げるかのように、近畿地区の新電力の旗手、大阪ガス(以下、大ガス)の電力事業が順調に契約数を伸ばしている。4月27日時点でその契約件数は12万件を超え、関西電力(同、関電)の加入世帯数約1250万件の約1%に達した。首都圏でも東京ガスの契約数が東京電力の加入世帯数の約1%に達しており、全国の契約数(約53万件)のほぼ3分の2を占める関西圏と首都圏で、ほぼ同じペースでガス会社が電力会社のシェアを奪っている。

 関電の一律の「最低料金」制に対し東電はアンペアごとに異なる「基本料金」制をとるなど料金体系が異なり、つい最近まで東電より関電の方が電気料金は安かった。資源エネルギー庁が2015年11月に公表した資料「電気料金の水準」によると、東日本大震災後、家庭用の電気料金は東電が2012年9月に8.46%、関電が2013年5月に9.75%値上げしたが、それでも標準家庭の場合、2014年12月時点の電気料金は東電の8388円に対して関電は8058円で、330円安かった。関西は首都圏よりも夏の暑さが厳しいので、標準家庭の1カ月平均の使用電力量想定は東電の290KWh(キロワットアワー)に対し関電は300KWhと10KWh多いにもかかわらず、である。

 ところがその後、東電が電気料金を据え置いたのに対し、関電は2015年の6月と10月に合わせて8.36%と、同じ年に2回も値上げした。「関電はアホみたいに値上げばっかししよる」というイメージは、このときに形成された。2015年12月時点では、標準家庭の月額電気料金の平均は東電が7518円、関電が8058円と逆転し、関電のほうが540円も高くなった。関電が2回値上げしても料金が変わらないのは、世界的なエネルギー価格の低下で燃料費が下がり燃料費調整による割引分が増えたためで、燃料安のおかげで東電の電気料金は1年で870円も下がったが、関電の電気料金は値上げ分と相殺され、プラスマイナスゼロだった。

 つまり、関電の契約世帯は2015年の2回の値上げのせいで、世界的なエネルギー価格の低下による恩恵をほとんど受けられなかった、という計算になる。昔から「電気代が高い」といわれ続けてきた沖縄電力の契約世帯ですら、値上げなしに1年で366円の恩恵が受けられた。関電の電気料金はその沖縄電力よりも高くなってしまった。

photo (出典:資源エネルギー庁の資料「電気料金の水準」)

 関西の人が不満を抱くのは当然だが、その怒りは持って行き場がある。2016年4月で家庭用電力の地域独占の時代が終わったいま、電気料金が「アホみたいに高い」関電をやめて安い新電力に乗り換えれば良いのである。

 もっとも、関電はそれに十分対抗しうる「原発再稼働」という切り札を持っていた。高浜原発3号機、4号機は原子力規制委員会の審査をパスし、2016年1〜2月に相次いで再稼働したが、4号機は再稼働の3日後にトラブルで緊急停止し、同年3月9日に大津地裁が3、4号機運転停止の仮処分決定を出したため、本格営業運転中の3号機まで停止を余儀なくされた。

 原発2基が再稼働すれば火力発電の燃料費が月に約100億円分節約できるため、関電は「再稼働後の5月に値下げする」とアナウンスしていたが、新料金で新電力に対抗できるはずのシナリオはもろくも崩れ去った。様子見していた人も「これで関電の値下げはない」とみて、新電力に乗り換えていった。

 その新電力で関西の人たちが最も期待しているのが、大ガスである。

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