東京の「地下鉄一元化」の話はどこへいったのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2016年07月22日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 7月14日に東京都知事選挙が告示された。報道では政党や陣営の綱引き、ネットでは誰それの発言を切り取った批判合戦。火事と喧嘩(けんか)は江戸の華、とはいえ、選挙はいつから人数合わせの「戦い」になってしまったか。顔を向け合って弾を打ち合うよりも、未来へ向けて政策を走らせる「競争」をしてもらいたい。

 ただし「言うは易く行うは難し」では困る。この言葉は紀元前、中国の前漢で、国家による専売制や商業の是非を討論した議事録「塩鉄論」に由来している。国家が民間と利益を争うべきか。これは、今回のテーマ「東京都の地下鉄の一元化」の議論に通じる。

 東京都民であり鉄道好きでもある私の関心事は各候補の交通政策だ。その中でも、地下鉄一元化が気になる。

東京の地下鉄路線図 東京の地下鉄路線図

 東京メトロの輸送人員は1日平均707万人。都営地下鉄は250万人。合せて957万人だ。これは世界の地下鉄の中でもトップだという。ただし経営主体が分かれているため、乗り換えれば運賃が割高となり、乗換駅可能な駅も動線が分断されるなど不便も目立つ。そこで2010年に石原慎太郎都知事が東京メトロと都営地下鉄の一体化を提言し、後任の猪瀬直樹知事が引き継いだ。しかし、猪瀬直樹知事の退任後は進ちょくが報じられない。

オリンピックのせいで放置されている

 これは舛添要一前都知事が地下鉄問題に無関心だったから、というわけではない。東京都議会の議事録を参照すると、今年2月25日の都議会「平成28年第1回定例会」の一般質問で、やながせ裕文議員が、地下鉄一元化および東京メトロ株の売却について、知事の所見を質問している。これに対して舛添前都知事は「地下鉄一元化は関係者間の意見の隔たりが多い。協議は継続する必要がある。そこまでは2020年(東京オリンピック)に向けて地下鉄全体のサービス向上に全力を挙げるべき」という趣旨の答弁だった。東京メトロ株の売却の意向はないと明言している。

 地下鉄一元化の協議は長引くから、その前にオリンピック対策をしようという話だ。「何だ、結局、舛添さんはオリンピックが大事なのか」と、今となっては苦笑しかける。しかし、「オリンピックで協議棚上げ」は猪瀬知事時代の方針である。さかのぼって「平成26年第1回定例会」の一般質問で、やながせ裕文議員が質問したところ、猪瀬知事は「経営一元化を展望しながら、2020年のオリンピック・パラリンピック開催を踏まえ、まずは、都民や外国人観光客の利便性向上に直結する地下鉄のサービス改善、一体化を一層進めていくことが重要」と答弁していた。

 2013(平成25)年に東京オリンピック開催が決定してから、あるいは招致準備の段階から、地下鉄一元化への取り組みは優先度が下がってしまったようだ。「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会」の参加者は国土交通省、財務省、東京メトロ、東京都だ。この中で一元化を強く主張する立場は東京都のみ。他の3者は現状でもかまわない、あるいは現状のままのほうが都合がいい。東京都がオリンピックに熱心ならそれで良し、である。

 この問題で困る当事者は地下鉄利用者だけど、このままでは置き去りだ。乗り換えるたびに割高な運賃を払う必要がある。国内外からの東京来訪者は戸惑うばかり。本来なら「オリンピックを機会に地下鉄を統合しよう」となってほしかった。

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