NECの新たな研究開発戦略 「4つの施策」とは?海外の人材登用、AIに注力

» 2016年12月20日 11時30分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 NECは12月16日、研究拠点の玉川事業所において、今後の研究開発戦略を発表。今後の人材登用や研究拠点の拡充に向けた方針、注力する研究分野などを説明した。

 中央研究所を担当する執行役員の西原基夫氏は、NECの基本方針として「将来技術ビジョン」「コア技術の強化」「骨太ソリューション領域への集中」の3軸を示した。これらの軸の基盤として、今後注力していくのは、「将来技術ビジョンの検討」「グローバルR&D」「オープンイノベーション」「人材マネジメント」の4つの施策だという。

photo NECの今後の戦略

NECが進める「4つの施策」とは

 1点目の将来技術ビジョンとは、2030年代に発生が予測される社会問題を想定し、未然に防ぐための技術を開発する施策だ。NECでは、犯罪の増加や、都市の人口増加による交通網や物流網の複雑化などを未来の課題として想定。課題の内容ごとに解決する時期を規定したロードマップを作成し、それに沿う形で研究開発を進めている。

photo NECが策定したロードマップ

 これまでに開発した技術は、暗号化したデータを複合することなく、暗号のまま処理を行うことで情報漏えいのリスクを軽減する「秘密計算技術」、監視カメラの映像に映る人の表情を高精度で判別し、不審者を特定する「動画顔認証」、数万人の群衆の中で、一人一人がどのように動いているかを微細に検知する「群衆行動解析」などがある。西原氏は一連の技術について、「犯罪を未然に防ぐために、個々の技術を組み合わせることが大切だと考えている。今後も10〜20年かけて新技術を生み出していきたい」と話した。

photo 「動画顔認証」の概要
photo 犯罪に対するNECの考え方

 2点目のグローバルR&Dとは、国内外で研究拠点を新設、再編、強化する施策を指す。世界各国の優秀な研究者からアイデアを得たり、各国のパートナー企業と協力して実証実験などを行うことで、新たな技術やソリューションを創出することが目的だ。

 この施策の推進にあたって、NECは各国のセンターに指示を出す“司令塔”の役割を果たす機関の「価値共創センター」を新設。加えて、セキュリティ研究所とシンガポール研究所の強化に注力しているほか、北米や欧州など世界各地に分室の設置を進めている。さまざまな地域の研究者が連携し、特定のテーマに取り組むという業務スタイルを目指すという。

photo グローバルR&Dの模式図

 3点目のオープンイノベーションは、国内有数の大学や研究機関、スタートアップ企業と連携し、技術の補完関係を築く取り組みだ。NECは特にこの施策に注力しており、16年度から投資金額を大幅に増資。18年度には現在の3倍の金額を投資するという。

photo オープンイノベーションの概要
photo オープンイノベーションで協業する組織

 現在は、産業技術総合研究所、大阪大学、東京大学と連携し、AI分野の開発を進める。NECのAI開発のコンセプトは、「実世界の社会課題を解決する」こと。国家、自治体、企業をターゲットとし、社会ソリューションに特化したAIの開発に注力することで、他社との差別化を図る考えだ。西原氏は、「AIは多くの競合他社が取り組んでおり、競争が激化しているように見えるが、我々はまだまだ攻める余地があると考えている」と説明する。

photo NECが注力するAIの領域

 4点目の施策である人材マネジメントでも、同社はAI領域に力を入れる。18年までにAIの技術者を300人に増やす方針だが、16年10月の時点で220人の人員を確保。当初の予定を上回る速さで人材を拡充している。

 AI関係の人材のうち4〜5割は、海外出身の研究者が占める。また、研究者や技術者だけでなく、人文学や法学の知識を持つ人材の採用も強化しているという。多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、法制度の整備など、AIを社会実装する際の課題を解決することが狙いだという。

photo 人材マネジメントの概要(AI)
photo 人材マネジメントの概要(海外)

 研究開発の体制や人材の登用に加え、AIの分野でも先進的な取り組みを続けるNECが手掛ける4つの施策は、社会にどのような価値をもたらすのだろうか。今後の展開に注目したい。

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