コミュニケーションアプリ「LINE」の開発陣も同様の手法を実践している。いわゆる「アジャイル型開発」(小単位での実装・実験を繰り返し、改善しながら徐々に開発を進めていく手法)という考え方だ。
開発者いわく、東日本大震災のときに被災地では、電話はつながりにくかったがネットはつながることが多かったため「ネット回線経由で音声通話ができるアプリがあれば」と考えた。
この時点で彼らは「メールをやりとりするとき、いちいち文章を打ち込むのが面倒だから『スタンプ』機能も持たせたい」とさまざまな計画を練っていたが、まずは「素早く」通話中心のアプリをリリースし、あとからスタンプなどの機能を実装していった。
その後、スタンプが人気になると、オリジナルスタンプが買える「スタンプショップ」を立ち上げた。スタンプショップは当初の案にはなかったが、スタンプの人気ぶりを勘案して開始し、現在は高い収益性を誇っている。
「事前に構想は練ります。しかし、完成形を決めてロードマップを作り、それに従って決められたものを作る――という作業はしません。世の中が動いたり、何かの機能が人気化したら、素早くそこに注力するためです。実を言うと、私は入社以来、3カ月より先のことが描いてある計画表(WBS)を見たことがありません」(「LINE」開発担当者)
また、はるやま商事の治山正史社長はこんな話をしてくれた。
「数学の応用問題の計算が苦手な子は、途中でうすうす『この方法では正解を出せない』と気付いても、その方法に固執します。しかし計算が速い子は、途中まで進めても『おかしいな』と思ったら別の方法ですぐに一からやり直すそうです。事業も同じですね」
楽天の通販サイトのランディングページもまずは素早くリリースし、そこで収集したユーザーの行動データなどを分析して徐々に「正解」に近づけていった。
三木谷社長は「行動するために考えるのでなく、考えるために行動する方が大事」と言っている。この言葉だけ放り出されると、意味はつかみづらい。だが、行動によって情報を収集しながら考え、先に進んでいくという真意が分かると、確かに新規事業の成功の多くは、このパターンによってもたらされていることが理解できる。
完璧を求め、もしくは失敗を恐れ、動かずにいることは、逆にリスクなのだ。経営者の言葉は「計画に“失敗”も包ませよ」と伝えているのだ。
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