なぜ社長は自分を棚に上げて「スゴい人になれ!」と叫ぶのか常見陽平のサラリーマン研究所(3/3 ページ)

» 2017年04月14日 06時00分 公開
[常見陽平ITmedia]
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社長の話は恥だが、役に立つ

 実は、この「新人に神様スペックを求めるのか」問題は、新聞でもかなり昔に話題になっている。1991年4月7日付の日経新聞の入社式関連記事にはこんな記述がある。

 「国際性が豊かなチャレンジ精神があふれるプロフェッショナルで、社会性も身につけた個性派ビジネスマン――。こんな“とんがり社員”があなたの周りにいますか?」

 「バブルがはじけ、財テクの時代は幕を閉じ、今まで以上に事業開発や戦略的に取り組まなければならない。加えてグローバル時代である。いろいろ注文を積み上げれば、スーパーマンみたいになるのも仕方ない」

photo 「新人に神様スペックを求めるのか」問題は昔も話題になっていた

 とはいえ、この酒の肴(さかな)になりそうな「社長スピーチ」も、聴くのは恥ずかしいが、役に立つものではある。彼なりに、社内外に会社の向かう方向を宣言しているのだ。IR、PRの一環であり、社員へのビジョン浸透などの意味がある。つまり、新入社員に語りかけているようで、広くステークホルダーに対して会社の向かう方向を伝えているのである。

 実際、この社長スピーチはサラリーマン的には極めて役に立つのである。言っていることが、やや妄想的であっても会社の向かう方向がなんとなく分かるのだ。社員としてどう振る舞えばいいのか、理解するキッカケになる。新しい期の始まりなので、誰が昇進・昇格しているか、抜てきされているのかと合わせてみると、効果てきめんだ。企業として何を大事にしていくのかが分かるのだ。

 取引先の社長スピーチに関する情報を入手し、分析するのもビジネスに有益である。提案内容のヒントになるからである。

 というわけで、社長スピーチは香ばしく、面白がる対象としてナイスではある。時に笑えるものである。とはいえ、恥ずかしいが、役には立つものでもある。

常見陽平のプロフィール:

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。

リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『僕たちはガンダムのジムである』『エヴァンゲリオン化する社会』(ともに日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)『普通に働け』(イースト・プレス)など。


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