利益優先?鉄道愛? 鉄道会社の株主総会報道を俯瞰する杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2017年07月14日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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株主から路線整理を突き付けられる

 締めくくりとして、JR九州とJR北海道の事例を紹介する。JR九州は16年10月に株式上場して以来、初の株主総会だった。鉄道部門が赤字で、不動産など非鉄道事業の好調によって上場を果たしただけに、利益を求める株主は鉄道に冷たい。6月24日の佐賀新聞によると、不採算路線については「第三セクター化を検討すべき」という意見があったという。

 こうした動きを予見したのか、JR九州の沿線自治体がJR九州株を購入し、株主として関与する動きがある。2月3日の産経新聞によると、日南線沿線の宮崎県日南市は3800株を取得、宮崎県串間市もJR九州株取得のために1000万円を予算化した。吉都線沿線の宮崎県えびの市も1000万円を予算化。高原町も続く。

 JR九州に関して言えば、非鉄道事業が成功した理由は、鉄道事業に真摯に取り組み、沿線地域から信頼を得たからだと私は思っている(関連記事「JR九州が株式上場まで赤字路線を維持した理由」)。赤字でも、地域のために精いっぱいの努力をする。その姿勢こそがJR九州の礎である。会社側が鉄道を存続したいと考えているならば、それを株主に説明する責任がある。

photo 日南市はJR日南線の維持を目指してJR九州株を取得(2013年4月撮影)

 JR北海道は非上場で、全株式を鉄道建設・運輸施設整備支援機構が保有している。6月23日の北海道新聞によると、株主として、路線見直し問題を着実に、スピードを上げて進めるよう会社側に求めた。こちらも株主から鉄道事業の縮小を求められた格好だ。

 本来、株式会社とは、事業に対して賛同した出資者が資金を提供し、成功報酬として利益の分配を受ける仕組みだ。しかし、証券取引市場の登場と発達によって、事業に関心がなくても利回りを重視して株式投資が行われるようになった。バブル景気のころからそれは顕著になったように思う。資金の流動化という意味では良いかもしれない。しかし、事業に理解のない株主によって、事業の目的に合わない株主要求がまかり通る状態も不幸だ。

 鉄道事業の事例に絞っただけでも、企業と株主の関係を考える良い機会となった。人工知能(AI)による証券取引が広まったいま、鉄道事業を理解する株主の役割は大きい。

photo JR根室線の不通区間にある落合駅。復旧費用は10億5000万円と見積もられた(2012年9月撮影)
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