顧客優先か労務管理優先か? ハイラックス復活の背景池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2017年11月20日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 10月16日、トヨタ自動車は2004年に国内販売を打ち切って以来、13年ぶりにハイラックスの販売を再開した。同型の車両はすでに15年からタイで生産が始まっており、日本市場へは2年遅れの投入となる。

 さて、特別な興味を持って追いかけていた人は別として、世間一般には国内再投入の理由はおろか、そもそもなぜハイラックスの国内販売が中止されたのかすら知らないだろう。

13年ぶりに国内に復帰したハイラックス。グローバル化の激流と国内需要の間に挟まれたトヨタの苦悩が見える 13年ぶりに国内に復帰したハイラックス。グローバル化の激流と国内需要の間に挟まれたトヨタの苦悩が見える

押し寄せるグローバル化

 トヨタの説明によれば、この種のピックアップトラックは「国際的に見ればどのメーカーのクルマもほぼミリ単位で同じサイズ」なのだと言う。新しいハイラックスは、全幅1855mm、全長5335mmとなっているが、フォード・レンジャー、いすゞDマックス、フォルクスワーゲン・アマロック、メルセデスベンツXクラスと言った競合車は皆このサイズになっている。それがピックアップトラックのグローバルスタンダードというわけだ。

 ところが、日本のマーケットでは事情が違う。この種のトラックに求められるのはいわゆる4ナンバー枠に収まることだ。ということは全幅1700mm、全長4700mmに収まらなくてはならない。現実には多少のサイズオーバーはあったのだが、それでも本質的には、2世代前、つまり6代目まで国内に投入されていたハイラックスは、国内専用の特殊な小型サイズであり、グローバルに見れば、ピックアップトラックとしては極めて特殊なモデルだったことになる。

 それでも68年の初代以来長きにわたって、ハイラックスには、内需をメインターゲットにして十分にペイするマーケットが国内に存在した。しかしながら時間の経過とともに売れ行きが徐々に落ち、ハイラックスを日本向けサイズで存続させることが難しくなっていった。そうした事情に鑑みて、先代、つまり7代目からいよいよターゲットマーケットをグローバルに移し、ボディサイズが拡大された。国内販売にこのグローバルモデルを投入することも検討されただろうが、ただでさえ売れ行きが落ちたハイラックスを大型化すればさらに売り上げが縮小することは目に見えている。これがハイラックスの国内販売中止の直接的な背景である。

国内販売打ち切り前の2世代前のモデルと並ぶとそのサイズ差がよく分かる。撮影は西湖で行なったが、立ち込める霧がまさに時代の混沌と二重写しになる 国内販売打ち切り前の2世代前のモデルと並ぶとそのサイズ差がよく分かる。撮影は西湖で行なったが、立ち込める霧がまさに時代の混沌と二重写しになる

 しかし、実は理由はそれだけではない。トヨタは02年からIMV(Innovative International Multipurpose Vehicle)プロジェクトを始動し、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心とした部品補完スキームを加速させた。ASEAN域内の関税の恩典を最大限生かし、部品と車両の多国間物流によるコストダウンを図ったのである。もちろん事情はASEANにとどまらず、基本概念としては、全世界的に需要のある場所でクルマを生産して、世界各地域の経済圏やFTA(自由貿易協定)域内の恩典を利用しつつ、為替リスクを回避し、生産を維持するための部品供給の多国籍な効率化で価格競争力を高める作戦である。

 ASEANマーケットに向けては生産はタイで行う。オーストラリアにも大きなマーケットがあるが、これはタイとFTAを結んでいるので、タイから輸出することで非関税の恩典が得られる。南米はアルゼンチンとブラジルに大きなマーケットがあるが、ここにはMercosur(メルコスール=南米共同市場)をうまく生かす。欧州とアフリカに対しては、EUと南アフリカのFTAを使って南アフリカで生産したクルマをEUとアフリカ全域へ供給する。言われてみれば当たり前だが、地球儀を見ながら、経済ブロックをうまく生かして合法的な範囲で節税しながらグローバル生産拠点を設定し、世界180カ国で販売をしている。

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