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「定期的な異動が生産性を落としている」説は本当かスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2018年04月03日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

非効率なシステムを続けている理由

 ただ、個人的には、この非効率極まりないシステムが今日まで続いている理由はもうひとつあると思っている。それは、組織の構成員に対して、「上」の命令に逆らうことなく、「絶対服従」を体に叩きこむ、という「社員教育」の機能だ。

 財務省の改ざん問題で、マスコミや評論家のみなさんが大真面目な顔で、「官僚が忖度(そんたく)するのは、官邸に人事を握られたからです」と言っていることからも分かるように、日本では職業倫理、働く人のプライド、というものを遥かに超越したところに、「人事」というものがある。

 どんなに自分の仕事に誇りをもっていようとも、そしてどんな立派な志をもった国家公務員であったとしても、人事を握られたら自分の正義や信念を曲げて従うしかない。借りてきた猫のように大人しくなって、悪事にも手を染める。

 外国人からすると理解に苦しむ職業倫理だが、我々日本人からすればこの「組織への絶対服従」は「当たり前」となっている。日本人にとつて「人事」とは、水戸黄門の印籠(いんろう)のように、人をへーへーとひれ伏させるほどの圧倒的なパワーがあるのだ。

 なぜこうなってしまったのか。筆者はこの人事への異常な執着は一朝一夕でつくられたものではなく、長い歳月を経て日本人のなかに刷り込まれた「教育」だと思っている。

 定期的な人事異動が行れるということは、裏を返せば、人事権を握る者は、さしたる理由をつくらなくとも「懲罰人事」も行えるということだ。例えば、反旗を翻しそうな反乱分子を僻地に飛ばすこともできるし、ライバルの勢力を切り崩すこともできる。

 そういうしょうもない「内ゲバ」に活用できるので、日本型組織にはピタッとハマった。実はこの点こそが、さしたるメリットもない定期人事異動が日本で延々と続けられた最大の理由ではなかったか。

 NHKが大河ドラマ『軍師官兵衛』を放送していたとき、舞台となった松山城のある苅田町の職員が調査をしたところ、あの時代にも「転勤族の悲哀」があったことが分かったという。

 激しい戦いの後、松山城を手中におさめた毛利元就は「城番」として内藤就藤という家臣を送り込んだ。内藤は上司である毛利に対して小袖や革袴(かわばかま)などをお歳暮として送っており、この背景には、本国へ早く返してほしいという願いが込められていたのではないかというのだ。

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