夏は活況、冬は閑散だった大町温泉を星野リゾートはどう活性化した?「界 アルプス」が再開業(1/2 ページ)

» 2018年04月04日 06時45分 公開
[伏見学ITmedia]
昨年末にリニューアルオープンした星野リゾートの「界 アルプス」 昨年末にリニューアルオープンした星野リゾートの「界 アルプス」

 JR長野駅から車で約1時間半。長野県の北西部、北アルプスの麓にある大町市を読者の皆さんは訪れたことがあるだろうか。

 恐らく登山する人であればご存じだろうが、この地は立山黒部アルペンルートの長野側の入り口となっている。古くは宿場町として栄え、現在の新潟県糸魚川市と長野県松本市を結ぶ千国街道が通っているため、山間の町でありながら当時から新鮮な魚介類が入ってくる地域だったという。

 そんな大町の中心部にあるのが大町温泉郷である。現在、10余りの宿泊施設が集まり、そのエリアの少し奥まったところにあるのが、2017年12月にリニューアルオープンした星野リゾートの温泉旅館ブランド「界 アルプス」だ。

 リニューアル前の客室稼働率は、年間平均で7〜8割。夏場はすぐ近隣に黒部ダムという強力な観光資源があることで稼働率は毎年ほぼ100%だという。リニューアル後は客室数がほぼ倍になったが、「初年度で6割を目指す」と総支配人の上打田内(かみうったない)健三郎氏は意気込む。

北アルプスの山々が美しい大町 北アルプスの山々が美しい大町

オペレーション教育を効率化できたわけ

 リニューアルの大きな理由は施設の老朽化だ。

 星野リゾートが運営に入った06年から基本的に客室等のリニューアルは行っておらず、壊れた箇所を修繕したり、畳を張り替えたりする程度だった。従って宿泊客のアンケートを見ても、施設が古いという声が目立っていた。「この点については代表(星野佳路氏)も理解を示し、リニューアルを検討してくれたわけです」と上打田内氏は話す。

リニューアル後、公道を挟んで両サイドを宿泊施設に リニューアル後、公道を挟んで両サイドを宿泊施設に

 では、具体的にどのようなリニューアルがなされたのだろうか。

 これまで1棟だけだった建屋を公道を挟んで2棟にした。それに伴い、客室は28室から48室に増やし、内装も地元の企業である松崎和紙の障子やライトをはじめ、大町の伝統工芸品などを使った「ご当地部屋」にした。「従来は2部屋だけでしたが、そこに泊まった人しか地元を感じられなかったのです」と上打田内氏は振り返る。

全客室には松崎和紙の障子が 全客室には松崎和紙の障子が
職人による和紙作り 職人による和紙作り

 施設の構造が大きく変わったことで、オペレーションもすべて見直した。さらにスタッフも2倍以上の50人に増えている。本来ならば苦労するのがスタッフのトレーニングであるが、今回のリニューアルにおいては新しいやり方を取り入れたことで、非常に効率的なトレーニングが可能になったという。

 従来ならオペレーション内容が決まった後で、総支配人なり、担当のリーダーがスタッフに張り付いて1つ1つ教えていくわけだが、界 アルプスでは今回、映像を使ったトレーニングを実施した。すべてのオペレーションを映像化したものをタブレット端末に入れて、スタッフ2人1組でその映像を見ながらオペレーションを覚えていったのだ。お互いで動き方をチェックし合い、気になる部分があれば、繰り返し見ることも可能だ。

 これによってトレーニング時間が飛躍的に削減できたほか、指導内容の平準化にもつながった。「これまでは人によって教える内容が違うということがあり、オペレーションがどんどんずれていきました。そこを最初から平準化できるようになったのは大きいです」と上打田内氏は強調する。

 上打田内氏によると、このやり方によって実に10倍以上も効率化されたようだ。このビデオを使ったトレーニングは界ブランドで徐々に実施されているが、リニューアル後のタイミングもあり、ここまで大規模に行われたのは社内でも界 アルプスが初めてのようだ。

 リニューアル作業そのものに関しても、星野リゾートにノウハウがどんどん蓄積されているので、その都度、効率化は図られているという。とりわけ上打田内氏は「星のや軽井沢」の立ち上げに携わった経験があるので、そのときはすべてゼロから作り上げなくてはならず、比べものにならないほどのハードさだったそうだ。今後ほかの施設でリニューアルする際も、しっかりと土台を築いたという経験が星野リゾートの強みとなっているようだ。

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