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» 2018年05月30日 07時00分 公開

雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る:「単純労働」は淘汰されない 「AIで仕事がなくなる」論のウソ (1/4)

「今後15年で今ある仕事の49%がAIによって消滅する」。野村総合研究所は2015年に衝撃的なレポートを出した。それから3年たった今、実際に起こっているのは「人手不足」である。AIによって私たちの働き方はどのように変わるのか。気鋭の雇用ジャーナリストが解き明かす。

[今野大一,ITmedia]

 「今後15年で今ある仕事の49%が人工知能(AI)によって消滅する」。野村総合研究所は2015年に衝撃的なレポートを出した。それから3年たった今、実際に起こっているのは「人手不足」である。AIによって私たちの働き方はどのように変わるのか。『「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト』(イースト・プレス)を発刊した気鋭の雇用ジャーナリストである海老原嗣生さんに聞いた。

実際に起こっているのは「仕事の消滅」ではなく「人手不足」

――海老原さんは雇用ジャーナリストとして多くの著作を出版されています。今回はAIについての著作ですが、反響はいかがでしょうか。

海老原: 特に大きな宣伝を打っているわけではないのですが、反響が多く驚いています。「AIが自分の仕事とどのように関係するのか」に関して、疑問を持っていた人が多かったからではないでしょうか。

――なぜこのテーマに関心を持っていらっしゃったのでしょうか。

phot 「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト』(著・海老原嗣生/イースト・プレス)

海老原: 日本人は「空気」や「風」に弱いという国民性がありますよね。流れができるとその流れに一気に乗ってしまう傾向がある。民主党政権が誕生したときには、民主党に人気が集まりました。でもその後に、支持者が急激に減った。過去には、どう考えても勝つことのできない太平洋戦争に日本軍が突き進み、神風特攻隊に自爆攻撃をさせた過ちもあります。

 AIの議論にも同じような違和感を覚えていたのです。15年に野村総研は「これから15年で今ある仕事の49%が消滅する」という衝撃的なレポートを出しました。ただ、そのレポートを読んでみたら本当におかしいと思いました。雇用現場の事情をほとんど調べずに書かれているので、粗過ぎるのです。そして今、野村総研のレポートから3年がたちました。でも実際に起こっているのは「仕事が消滅する」どころか、強烈な「人手不足」ですよね。

最初になくなるのは「コンピュータの中で完結する仕事」

――そういった問題意識だったのですね。なぜAIで仕事がなくなる、という言説に違和感を覚えたのでしょうか。

海老原: 日頃から付き合いのある企業の関係者から「AI推進がうまくいっていない」という話を聞いていたからです。もちろん取材の場では、そんなことは決して言えない。そんなことを言ったら上司に怒られてしまうからです。どの企業も表向きは「AI推進企業」という看板を出しているものの、実際には成功していないというのが企業の実態だと感じていました。

 じゃあ何でAI推進がうまくいっていないかというと、これまた口々に同じ理由を言います。事務処理を中心とした「コンピュータの中で完結する仕事」は、「AI代替」が比較的うまくいっているのです。でも、物を動かすとかおすしを握るとかケーキを包装するといったような、「物理的行為が伴う仕事」は「AI代替」がうまくいかないと皆が答えていました。

――物理的な作業こそ簡単にAIによる代替が進みそうですが、違うのですね。

海老原: 物理的作業は「単純労働」とも呼ばれています。この単純労働という仕事は、簡単そうに見えて、実は1人の人が細切れで多彩な労働をしているのです。例えばケーキ屋さんのレジ打ちの仕事も、レジ打ちだけやっているわけではない。ケーキを並べ替える、ケーキを補充する、ケーキを包装する、ショーウィンドウを磨く、値札を付け替えるなど8つ以上のタスクがあります。

 1つの作業だけをみれば、AIと、その手足となるロボットで完璧にこなすことが可能です。ただ、多彩な労働をAIにやらせようとすると、7台も8台もロボットが必要になります。ロボットがたくさん店頭に並んでいると見栄えも悪いし、何より莫大な投資が必要になります。

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