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弱みだった「人」をどう変えた? アルバイト出身の女性役員が語るスープストックトーキョー流の働き方顧客満足にも影響(3/5 ページ)

» 2018年07月13日 06時30分 公開
[やつづかえりITmedia]

パートナー社員の「体温」を上げた方法

 「スープ屋をやることで世の中にどんな価値を生んでいくのか」「理念をどうやって実現していくのか」――。

 分社のタイミングで改めて考えた江澤さんらは、売り上げ規模ではなく「各店舗における客数」を、事業のKPIとして重視することに決めた。その結果、人事施策の中でも「パートナーの巻き込み」の優先度が上がったと江澤さん。

 「例えば、立地条件の良いお店を出せばトータルの売り上げは拡大します。でも私たちが目指すのは、一度いらしたお客さまが『また来たい』と感じてリピーターになってくださったり、他の方を連れて来てくださったりして、それぞれのお店の客数が増えていくこと。それを明確にしました。

 その鍵になるのは日々お客さまに接しているパートナーさんです。お客さまがいつ来ても気持ちの良い接客や空間、美味しい食事を楽しむことができるお店にするために、パートナーさんをいかに巻き込んでいくか。そこを重視しました」

 一方で社員からは、まさにその「パートナーを巻き込む」ことの大変さを訴える声が増えていた。江澤さんは、それを現場任せにするのではなく会社としてバックアップする必要を感じたという。

 「パートナーさんたちの巻き込みを店長がやるのはもちろんですが、会社全体でもやっていくことで、店長の背中を押したり、サポートしたりすることにつながればと考えました」

 パートナーを巻き込むためのさまざまな施策の中でも大きな変化をもたらしたのは、「Soup Stock Tokyo Grand Prix」という社内コンテストと、「Smash」という社内SNSだ。

 Soup Stock Tokyo Grand Prixは、事前審査で選ばれた9店のチームが200〜300人の関係者の前で成果発表をし、大賞を決める場だ。

 「『世の中の体温をあげる』という理念は抽象的なので、『こういうものなんだな』と理解してもらうには、リアルな実例がたくさん生まれてくることが一番だと思うんです。理念をどれだけ体現して、お客さまにお店のファンになってもらうことができたか、それをみんなの前で発表してもらい、頑張っているパートナーさんに光を当てる機会を作りました」

 舞台に上がるチームは、店頭でアンケートをとって分かった顧客の声や、顧客との距離を縮めるためにいつもより少し勇気を出してできたことなど、さまざまなエピソードやそこから得た学びをプレゼンテーションする。これは、出場する本人たちの意識が高まるのはもちろん、舞台を見ている他店のパートナーにとっても大きな刺激になる。また、コンテストの当日は同社の会長、社長、各部長が審査員として参加し、場を盛り上げる。それが「会社の本気」を伝えることにもなっているだろう。

 当然、コンテストの日にも店は営業しているので、各店舗から参加できるパートナーは2〜3人だ。店長は、現場で中心的役割を担っているパートナーや、逆にモチベーションが低めなパートナーなど、より「体温をあげてほしい」という人を選んで参加させる。グランプリの場で発表したことがきっかけで仕事への本気度が増し、後に社員になった人もすでに数人出ているそうだ。

 「Smash」は、パートナーに会社や商品の情報を伝える社内報としての機能と、自由に文章や写真の投稿、それに対するコメントができる機能を持つオリジナルの社内SNSだ。特に投稿内容のルールはないが、常日ごろから理念を伝えることを心掛けてきたことの効果か、顧客に喜ばれた接客方法など、理念につながる内容の投稿が多いという。

 社長をはじめとする社員は、パートナーの投稿になるべくコメントを付け、コミュニケーションの活性化を図っている。パートナーの投稿に対して真っ先にコメントするのは社長が最も多いそうだ。

 また、投稿内容をサービスの改善につなげることもある。

 例えば、「『朝のお粥セット』を提供している時間帯に、セット用のお粥と通常メニューにあるお粥で値段が違うことを、どうお客さんに説明したら良いか?」というアドバイスを求める投稿があった。それを見て、顧客にとって分かりづらいだけでメリットのないルールを押し付けていたことに気付いた経営メンバーは、その日のうちにサービス内容の変更を決め、「明日から、どのお粥も『朝のお粥セット』の値段で販売してOKです!」とSNSに投稿したのだ。

 こういった対応は、パートナーに「投稿が真剣に読まれている」、「自分たちのアクションが会社を動かすこともある」、「会社は本当に顧客のことを考えている」といった気持ちにさせ、会社に対する信頼感を増すことにつながったようだ。

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