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“リーマンショック解雇”を機にフレンチの道へ 元外資金融マンが描く「第3の人生」連載 熱きシニアたちの「転機」(1/5 ページ)

» 2018年07月19日 07時00分 公開
[猪瀬聖ITmedia]

連載:熱きシニアたちの「転機」

「定年後」をどう生きるのか――。

「人生100年時代」が到来する中、定年直前になってからリタイア準備を始めるのでは遅い。生涯現役を貫くために、定年後を見据えて「攻めの50代」をいかに過ごすか。新天地を求めてキャリアチェンジした「熱きシニアたち」の転機(ターニングポイント)に迫る。


 「いらっしゃいませ。本日のランチセットはこちらになります」

 テーブルに座った客に人懐こい笑顔でメニューの中身を説明すると、踵(きびす)を返して店の奥の厨房(ちゅうぼう)に戻り、すぐさま料理を抱えて別のテーブルへ。ランチ客で混み合う広い店内をエプロン姿で1人、忙しそうに動き回るのは、東京・西麻布のレストラン「ビストロアンバロン」のオーナー、両角太郎さん(54)だ。

phot ビストロアンバロンのオーナー、両角太郎さん

 おしゃれな街、西麻布に両角さんがカジュアルなフレンチレストランを開いたのは、今から9年前の2009年。長引く個人消費の低迷でつぶれる店も多い中、14年から18年まで5年連続でミシュランガイドに載るなど、知る人ぞ知る有名店に成長した。だが、意外にも、「店を閉めようかと真剣に考えたこともある。今も経営は決して楽ではない」と両角さんは真顔で話す。

phot ミシュランの寸評には「何よりの魅力は、自らサービスにあたるオーナーのホスピタリティ」と書かれている

 両角さんは、アンバロンを開く前は超がつくエリート金融マンだった。

 バブル絶頂の1988年、東京大学理学部を卒業し安田火災海上保険(現損保ジャパン日本興亜)に入社。4年後、世界中からビジネスエリートが集まる米ペンシルベニア大学経営大学院(ビジネススクール)に、企業派遣で留学。経営学修士(MBA)を取得して帰国すると、程なくしてロンドンに転勤。帰任後は米企業との合弁事業の立ち上げを担当するなど、まさにエース的存在だった。

 だが、それに満足しなかった両角さんは、外資系金融機関のGoldman Sachs Asset Management(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント)に転職。数年後、日本郵政公社(現日本郵政)が投資信託の窓口販売に参入するというビッグニュースが金融市場を駆け巡る。両角さんは社命を受け、自社の商品を窓口に置いてもらうべく郵政に猛烈な売り込みをかけた。

 結果、野村アセットマネジメント、大和証券投資信託委託と共に、外資系では唯一、郵政との契約を勝ち取った。「外資に閉鎖的な日本の金融市場をゴールドマンがこじ開けた」として、日本経済新聞、英Financial Times(フィナンシャル・タイムズ)、米Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)の世界3大経済紙が、一斉に1面で報じた。

phot 店は席数42席、本場パリのビストロを思わせる内装だ

 そんな超エリートの両角さんが、なぜ突然、金融業界を去り、レストランで自ら料理やワインをサーブするようになったのか。

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