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人手不足が深刻化、建設現場の生産性向上は喫緊の課題だ減り続ける大工(1/2 ページ)

» 2018年09月06日 06時30分 公開
[NRIジャーナル]
株式会社野村総合研究所

 野村総合研究所(NRI)では毎年、世帯数のピークアウト後も視野に入れた2030年までの国内住宅市場の見通しを発表しています。人口・世帯数の減少は、新設住宅着工戸数という需要の減少をもたらしますが、同時に大工人数という供給の減少ももたらします。

 長年、住宅市場の分析をしてきたNRIが2030年の住宅市場を需要と供給の両面から解説します。

今後日本では新設住宅着工戸数が減少すると同時に、大工の数も減少していくという(写真提供:ゲッティイメージズ) 今後日本では新設住宅着工戸数が減少すると同時に、大工の数も減少していくという(写真提供:ゲッティイメージズ)

人口・世帯数減少の影響がダイレクトに効いてくる住宅市場

 日本は今、人口は減少局面に入っているものの世帯数はいまだに増加しているという、いささか特殊な状態にあります。その世帯数も2023年にはピークアウトすると予測されており(国立社会保障・人口問題研究所)、近代以降、先進国の中で、どの国も経験したことのない人口・世帯数減少時代がいよいよ目前に迫ってきました。

 人口・世帯数減少は、国内のさまざまな市場に大きな影響を及ぼしますが、とりわけその影響が大きいと考えられるのが住宅市場です。住宅は耐久消費財の中でも最も買い替えのサイクルが長く、日本人が一生のうちに購入する住宅の平均戸数は2戸を下回ると言われています。日本の総住宅数から空き家数を除いた数と世帯数は、ほぼ一致することからも、世帯数減少がダイレクトに効いてくる市場だと言えます。

30年度の新設住宅着工戸数は60万戸にまで減少

 18年6月にNRIが発表した予測では、新設住宅着工戸数は17年度の95万戸から、20年度には77万戸、25年度には69万戸、30年度には60万戸と減少していく見込みです。利用関係別に見ると、30年度には持家20万戸、分譲14万戸、貸家(給与住宅を含む)26万戸となる見通しです。

 国内住宅市場はこれまで、日本の気候風土や文化の影響を強く受け、新設住宅に依存した構造を維持してきました。この60万戸という戸数は、バブル崩壊後のピークであった1996年度の約163万戸の4割以下の水準となります。新設住宅に依存してきた住宅業界にとっては、抜本的な構造改革が必要となるでしょう。

30年の大工人数は21万人にまで減少

 一方で、国内における大工人数も長期的に減少傾向にあります。1985年には約81万人でしたが、30年後の2015年には半数以下の約35万人にまで減少しました。しかも、その約4割を60歳以上が占めています。現在の大工業界では、職人数の減少と高齢化が同時進行しているのです。

 大工人数の推移を注意深く見てみると、実は10年から15年にかけては、減少速度がやや緩やかになっています。年代別に見ると、特に60歳以上の減少速度が緩やかになっています。東日本大震災の復興工事や景気拡大による工事需要の急増が、60歳以上の大工の引退を“踏み止まらせた”のだと推測できます。

 しかし30年に向けて、60歳以上の大工が本格的に引退していくことに加えて、他産業との人材獲得競争に勝てる見込みも少ないため、大工人数の長期的減少は避けられないでしょう。NRIの予測によると、15年に35万人だった大工人口は、30年には21万人にまで減少すると見込まれます。

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