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中小企業の「生産性革命」は実現するのか?さまざまな課題(1/4 ページ)

» 2018年08月24日 07時00分 公開
[中村洋介ニッセイ基礎研究所]

 少子高齢化による人手不足や、技術革新を通じた急速なデジタル化が進む中、日本企業の「生産性革命」の必要性が叫ばれている。その流れは中小企業にとっても例外ではない。政府の成長戦略でも、「中小・小規模事業者の生産性革命のさらなる強化」がうたわれる中、中小企業の取り組みが注目される。

中小企業の生産性革命がうたわれているが……(写真はイメージです) 中小企業の生産性革命がうたわれているが……(写真はイメージです)

中小企業の生産性、IT導入をめぐる現状

 ここ数年の中小企業白書をひも解くと、中小企業の景況感や業績は改善基調にあるものの、その生産性が伸び悩んでいることが指摘されている。従業員一人当たりの労働生産性(※1)は、大企業については、リーマンショック後に落ち込んだものの、その後製造業・非製造業とも回復基調にある。

 一方で、中小企業については、長らくほぼ横ばいでの推移が続いている(図表1)。2009年以降で見る限り、大企業と中小企業の労働生産性の格差は拡大基調にある。

図表1 企業規模別 従業員1人当たり付加価値額(労働生産性) 図表1 企業規模別 従業員1人当たり付加価値額(労働生産性)

 しかしながら、労働生産性で大企業を凌駕する中小企業も存在する。2016年度版中小企業白書では、小売業の例を紹介している(図表2)。大企業小売業の平均を超える労働生産性(※2)を有する中小小売業の特徴として、設備投資額、情報処理・通信費、従業員一人当たり人件費の大きさ、資本装備率の高さを指摘、付加価値や生産性向上のためのIT投資の重要性について言及している。

図表2 生産性の高い中小小売業の特徴(平均) 図表2 生産性の高い中小小売業の特徴(平均)

 また、深刻化する人手不足への対応という観点でも、IT導入の必要性が増している。足もとの人手不足感は、大企業以上に中小企業で強まっている(図表3)。労働需給が引き締まる中、従業員への待遇や信用面で大企業と差がつく中小企業にとっては、より人員の確保が難しくなっている。

図表3 従業者過不足DIの推移 図表3 従業者過不足DIの推移

 また、政府の旗振りもあって、社会全体で働き方改革が進められる機運の中、既存の従業員の残業・長時間労働で対応するにも限界がある。

 小規模事業者の中には、経営者自身が人手不足を補うべく、事務作業等に忙殺されているケースもあるだろう。人手不足を補う上でも、中小企業にも積極的なIT導入、活用が必要だろう。

 以前に比べれば、中小企業でもIT導入のメリットを、より簡単に享受できるようになっている。EC(インターネット通販)の普及で、実店舗が無くても販路を広げられるようになった。また、スマートフォンやSNSの普及は、大きな費用がかかるテレビ・雑誌等への広告出稿や、人海戦術による営業をせずとも、インターネットを通じて、よりコストをかけることなく、顧客に接触することを可能とした。

※1 付加価値額(=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益)÷従業員数(法人企業統計調査年報より)

※2 ここでの労働生産性は、「平成26年度企業活動基本調査」のデータをもとに、付加価値額(営業利益+人件費+租税公課+動産・不動産賃借料)÷総従業員数で算出されている。

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