#SHIFT

中小企業が見直すべき福利厚生とは?昔とは違う従業員ニーズ(1/3 ページ)

» 2018年08月08日 06時30分 公開
[菅原佑香大和総研]
株式会社大和総研

従業員の定着率向上の手段としての福利厚生

企業が従業員の確保や定着をうながすために必要なのは賃金政策だけではない(写真提供:ゲッティイメージズ) 企業が従業員の確保や定着をうながすために必要なのは賃金政策だけではない(写真提供:ゲッティイメージズ)

 深刻な人手不足の中でいかに人材を確保し定着させるか、企業はその対応に迫られている。

 東京商工リサーチの「2017年『賃上げに関するアンケート』調査」(※1)によれば、2017年4月に賃上げを実施した企業は約8割であり、「従業員を定着させるため」を目的として賃上げを実施した企業は資本金1億円以上の大企業で46.7%、1億円未満の中小企業で53.8%と、中小企業の方が従業員の定着のための賃上げに積極的であった。

 また、賃上げを実施した結果、7割強の企業は「従業員のモチベーションが上がった」「従業員の離職率が低下した」「入社希望者が増えた」など効果を実感する一方、2割程度の企業は「効果はなかった」と回答した。だが、「効果はなかった」と答えた企業でも、その約7割が今後も引き続き賃上げを「実施する予定」と回答しており、中小企業でその傾向が強い。

 このように従業員の確保や定着を考える際に、第一義的には賃金政策が重要である。しかし、人々は賃金だけで勤め先を決めているわけではない。賃金以外にもさまざまな要素があるが、本稿では、企業の福利厚生に着目し、近年の働き手の多様化やライフスタイルの変化に対応した制度を目指すことの重要性について指摘する。

※1 本調査は2017年5月12日〜23日にインターネットでアンケートを実施し、有効回答5913社を集計したもの。

働き手の多様化とライフスタイルの変化

 福利厚生について検討するにあたって、まず制度を利用する従業員の変化について整理しよう。

 図表1では1987年と2017年における世帯構造や女性・高年齢者の労働力を比較した。かつては「男性が外で働き女性は家庭を守る」といった性別役割分業意識のもとで主に男性(夫)が働き続け、60歳を過ぎれば年金を受給することが一般的であった日本社会は、この30年間で大きく変化した。

図表1 世帯構造や女性・高年齢者の労働力の変化(1987年と2017年)(出所)労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計」、総務省統計局「労働力調査」より大和総研作成 図表1 世帯構造や女性・高年齢者の労働力の変化(1987年と2017年)(出所)労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計」、総務省統計局「労働力調査」より大和総研作成

 専業主婦世帯と共働き世帯数を比較すると、専業主婦世帯は3割ほど減少する一方、共働き世帯は6割ほど増加した。これは、15〜64歳女性の労働力率がこの30年で約1.3倍に上昇したことと整合的である。

 特に、出産や子育てと仕事のいずれをとるのか葛藤が生じやすかった25〜44歳の女性の労働力率が上昇したのは、女性が仕事と家庭の両立を図りながら男性と同じように働くことが、社会の中で当たり前であると認知されるようになり、働きやすい土壌も整備されてきた証であるだろう。

 制度面では、1986年に職場における男女差を禁止する男女雇用機会均等法が施行(1999年に一部改正施行)されたことや、1991年にすべての労働者を対象とした育児休業法が成立したことなどが女性の就労環境の整備を後押しした。

 さらに、男性の雇用不安などを背景として、家計補助的な役割を担いながら働く主婦パートの女性が増加したことも女性労働力率上昇の一因である。2017年10〜12月において女性の55.8%は非正規雇用として働いているが、その比率は30年前から20%ポイントほど上昇した。

 この30年間での変化は女性だけではない。30年前に比べて、労働力人口に占める60〜64歳の割合は1.5倍に高まった。2006年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用確保措置を導入することが企業に義務付けられた(※2)ことで、60歳定年を過ぎても意欲と能力があれば働き続けられる社会へと変化してきた。

 2012年の同法の改正により、2013年4月以降は定年時に継続雇用を希望する全ての社員を65歳まで雇用することが義務付けられている(※3)。

 女性や高年齢者の労働参加が進むなど働き手が多様化したことで、性別や年齢にかかわらず家庭生活との両立を図りながら仕事に従事する人が多くなってきた。その結果、働く人々のライフスタイルも大きく変化し、多様化してきたと考えられる。また、安倍晋三内閣が進める「働き方改革」は、こうした社会構造の変化に対応するための制度改革であり、企業文化や風土も含めて変えようとするものである。

※2 企業は2006年4月以降、(1)定年年齢の引上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年の定めの廃止、のいずれかの措置の実施が義務付けられた。

※3 改正前は、労使協定により基準を定めた場合、希望者全員を対象としないことが可能であった。なお、労使協定により基準を定めている事業主であって、2013年4月1日以降、直ちに希望者全員の雇用確保措置を講じることが困難な場合は、2024年度末までの経過措置が認められている。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © Daiwa Institute of Research Holdings Ltd. All Rights Reserved.