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中小企業の「生産性革命」は実現するのか?さまざまな課題(3/4 ページ)

» 2018年08月24日 07時00分 公開
[中村洋介ニッセイ基礎研究所]

 また、IT化の障害・制約については、費用対効果や投資費用といった問題のほか、人材の不足、効果や具体的な活用方法が分からない、セキュリティ、経営者のITへの理解不足といった事項が並んでいる(図表8)。費用面の課題だけでなく、ITに明るい人材・経営者がおらず、「具体的な活用イメージや導入効果が分からない」、「どこのサービスが良いのか分からない」、「進め方や留意点が分からない」といった課題を持つ中小企業も多そうだ。

図表8 IT化の障害・制約 図表8 IT化の障害・制約

 財務会計・経理、グループウェア(スケジュール管理や社内コミュニケーションに活用するソフトウェア)、顧客管理システム等、最近のクラウドサービスは使い勝手も工夫されており、ITに詳しくない人でもスマートフォン感覚で簡単に使えるものも増えている。

 しかしながら、いざ新規導入を検討とする段階では、一定のIT専門知識も必要となってくる。ITサービスを提供する事業者は、ベンチャーや中堅・中小企業も多く、全国の中小企業にまで出向いて情報提供や導入支援をする営業人員・体制を擁していない。費用対効果の観点から、インターネットや電話(コールセンター)による申し込みやサポートを中心にしている事業者も多い。中小企業側も、受身の姿勢ではなく、自らが積極的に情報を集めて導入や利活用に取り組む姿勢が必要な状況だ。

 政府も、中小企業の生産性向上、IT導入・利活用に強い課題意識を持っている。2017年3月に、中小企業庁が「スマートSME(中小企業)研究会」を設置し、有識者や中小企業の経営者等を交えて、中小企業のIT活用促進施策や環境整備について議論を進めてきた。

 また、2018年6月に閣議決定された成長戦略「未来投資戦略2018」においても、「中小企業・小規模事業者の生産性革命のさらなる強化」が掲げられ、目標値(KPI)として「2020年までの3年間で全中小企業・小規模事業者の約3割に当たる約100万社のITツール導入促進を目指す」ことが新たに掲げられた。2017年度補正予算によるIT導入補助金(予算規模:500億円)、ものづくり・商業・サービス補助金(予算規模:1000億円)、2018年5月に成立した生産性向上特別措置法で創設された固定資産税の負担減免の措置等、IT等先端設備の投資促進策も講じられている。

 また、IoTやロボット導入支援を行う「スマートものづくり応援隊」事業や、成功事例等の情報共有やモデル事例の発掘・組成支援等を行う「中小サービス等生産性戦略プラットフォーム」の設立等、さまざまな策を打ち出している。こうした支援策や情報発信の内容を良く知らない中小企業の経営者・担当者もまだまだ多いと思われるが、今後も中小企業の生産性革命に向けた政府の取り組みが推進され、成果が出てくることに期待したい。

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