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中小企業の「生産性革命」は実現するのか?さまざまな課題(4/4 ページ)

» 2018年08月24日 07時00分 公開
[中村洋介ニッセイ基礎研究所]
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中小企業の生産性革命が実現するには

 中小企業の良さは、自らの技術や商品・サービスの強みをもとに、小さい組織ならではの意思決定の早さや、事業展開・顧客対応等における機動性の良さを生かして、大企業が手を出さない(もしくは出せない)分野・市場・地域を開拓できるところにある。

 しかしながら、深刻な人手不足は、その機動性や小回りの良さを奪いかねない。また、IT化やデジタル化の波に乗り遅れると、積極的にIT化を進めたライバルに生産性や機動性で大きな差をつけられてしまう。創業間もないベンチャー企業でも、当たり前のようにクラウドサービスを活用し、自らの本業・強みに資源を集中できるような体勢を整えているところが多い。

 また、中小企業のベテラン職人・従業員ならではの「技術力」や「サービス品質」がITや機械に一部代替され、競争力を失う恐れもある。そして、業種によっては、ITサービスの進化で実店舗や営業人員を擁せずとも販路・顧客網を拡大できる。これは中小企業にとっても大きなメリットなのだが、裏を返せば、自らの商圏に今まで手を出してこなかった大企業や他の地域の中小企業も、強力なライバルになり得ることを意味している。極端な話、海外の大手ITプラットフォーマーに、大きくビジネスを侵食される企業も出てくるかもしれない。人手不足、デジタル化という環境変化が急ピッチで進む中、中小企業がその良さを活かして生き残っていくためにも、積極的なIT化への取り組みは待ったなしの状況だと言える。

 中小企業やその経営者にとっては、ITへの感度を高め、積極的に導入し活用していこうという姿勢が、これまで以上に必要だ。AIのような最先端技術を活用することが絶対に必要というわけではない。既に他の中小企業も導入し始めているような、「(良い意味で)身の丈にあった」IT技術やサービスを導入していくことが、まずは重要だ。積極的に情報収集を進め、ITに明るい人材の確保(育成・採用)や相談できるパートナー探しを進めていく必要もあるだろう。

 また、多くの中小企業にIT人材や情報が不足する中、自治体等の支援機関、税理士・会計士等の士業関係者、地域金融機関といった「中小企業のサポーター」にも、ITに明るい人材が増えていって欲しい。業務革新につながった成功事例の紹介や、評判の良いITサービスや事業者についての情報提供、具体的なIT利活用アドバイス等ができる人材がいれば、中小企業にとって非常に心強い。

 一部の地方銀行や税理士事務所が、クラウド型会計ソフトを提供する事業者と組んで、そのサービスを活用した会計・経理業務の効率化や、経営状況の「見える化」について、中小企業にアドバイス、コンサルティングしている事例もある。地方銀行や税理士事務所にとっても、取引先の経営状況が詳しく把握できるようになり、取引先の信頼を得て新たな取引につなげていくチャンスにもなる。地方の中小企業にまで人海戦術で営業・サポートできないIT事業者にとっては営業面での強力なパートナーを得ることになり、互いにメリットのあるスキームである。このような、中小企業のIT化を支えるサポーターの輪が広がっていくことに期待したい。

 企業数では日本企業の約99%を占め、従業員数では約70%を占めるという中小企業。その「生産性革命」を通じて、大企業に負けない魅力溢れる中小企業が次々と現れ、日本経済や地域経済が一層活性化することを切に願う。

著者プロフィール

中村洋介(なかむら ようすけ)

ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任

研究・専門分野:日本経済、ベンチャー


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