そういう背景によって、SUBARUはマイルドハイブリッドを選択したとも言えるし、裏返せば、水平対向のストロングハイブリッドは、この30年間自動車産業が試行錯誤の末作り上げてきた最適解を覆す、新しいストロングハイブリッドシステムを考案しない限り成立しないということでもある。多分SUBARUはそれにチャレンジしていると思うが、現時点では製品化できていない。
当然SUBARUは小径モーターの弱点を知っている。トルクが限られたモーターに何の仕事をさせるのか? そこを唸りながら考えたのだと思う。そしてe-BOXERは出足の良さにこだわった。実際、SUBARUは前回のクローズドコース試乗の時から、e-BOXERの説明をするたびに「出足のレスポンスをぜひ見てください」と言い続けている。
スッと踏めばスッと出る。開発の主眼はそういうレスポンス向上に置いた。素早いレスポンスのためにフライホイールの重量を半分近くまで軽量化した。非力なモーターで出足を稼ぐために手を打ったのだ。
クルマというのは不思議なもので、どこかひとつリズムを変えたら、他の部分もそれにリズムを合わせ込んでいかなくてはならない。そのために舵角を与えた時の初期応答も早くした。だからe-BOXERは、よく言えば全ての動きがキビキビしている。「よく言えば」ということは悪くも言える。そこには「タメ」がない。
いきなり「タメ」と言ってもピンと来ないだろう。例えば、デスクの上にあるコーヒーカップを持ち上げるとき、人の手はいきなりトップスピードでカップを持ち上げたりしない。そろりと持ち上げて、徐々に加速し、また口元で減速して唇にカップを当てる。ゆっくり動き出し、速度を上げてまた減速する。この二次曲線的、もう少し正確に言えばロジスティック曲線的な速度変化が理想的で、その「ゆっくり」部分がタメなのだ。人間工学的にはそういう速度変化が快適感を生む。
e-BOXERは、モーターの仕事をはっきりさせようとし過ぎるあまり、クルマ全体にセッティングで俊敏性(アジリティ)を過剰に演出したクルマの仕立てになっているのだ。個人的にはモーターはそもそもレスポンスが良いのだから、その素養に全てを任せても良かったのではないかと思う。いろいろと手段を講じてまでレスポンスの速さを演出する必要があったのかが疑問に思える。
例えば、こういうことだ。フライホイールの軽量化は利得ばかりではない。軽くしてデメリットがないならわざわざ重たいフライホイールなど最初からつける必要がない。慣性を落せば回転変動が起きやすい。だからタイヤのひと転がり目の一番大事なところで、ショックを伴うトルク変動を感じられるときがある。平たく言うとスムーズでない。常にではなく不定愁訴のように出る。気になっていろいろ試したが、再現条件が何であるのかついに筆者にはつかむことができなかった。いずれにしてもトルクの低いモーターを何とか生かそうと打った手にはそれなりの副作用が出ている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング