武市さんは「裕福であることが必ずしも幸せに結び付かない」と思っている。では、武市さんはどんな時に幸福を見いだしているのだろうか。尋ねてみると、「一生懸命面倒を見てきた花が咲いたとき。『余は満足じゃ』という気持ちになる(笑)」という。花が咲く。その一瞬のために、77歳を迎えた今、雨の日も風の日も重労働を厭わないのだ。花が咲かず心が折れた日も数多い。
「当たり前だよ。100やって、形になることや他人に認められるのは1か2なんじゃないかな。でも1つのことが認められれば、いつか残りの部分も評価されるようになるんだ。突破口はその人によるけどね。自分の感性で『これだ』と思ったことをやらなきゃ。人以上に自分が大きくなろうと思ったら、ひらめきがとても大事だよ。どう実現するかはそのあとだけどね」
武市さんは自ら花の交配も手掛けていて、「皆から見捨てられた草花を生かして交配してやる」のだという。
「例えばこのヒメジョオンを作るのに40年かかったよ。一番青い花で良さそうなものを集めて交配させるんだ。1年で0.1ミリしか変わらなくても40年経てば4ミリの違いになる。4ミリ違えば違いが分かるでしょ? 分度器と同じだよ。最初の角度の違いは少しだけど、後になってかなりの広がりになる。だから『根本をどう見極めるか』が大事なんだ」
「何十年もかけて世話をすれば、どんな花にも“色気”が出てくる。花としての立場を得るんだよ。それを作ってやるのが俺の仕事だから」
どんな花でも手をかけて育ててあげれば色気が出てくる――。それは人間も同じですね、と武市さんに聞いた。
「そうだね。手をかけてあげることと、その人の努力も大事。2つが揃えばその道のトップにはなれなくても、そこそこの花にはなれるんじゃないかなあ」
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