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“やりがい搾取”に疲弊 保育士を追い詰める「幼保無償化」の不幸河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)

» 2018年10月26日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

「燃え尽き症候群」が労働者の状態を表すようになった理由

 心も体も「灰」になるまで働き続ける「燃え尽き症候群」は、英語では「バーンアウト」と呼ばれ、もともとは「ドラッグ常用者が陥る無感動、無気力の状態」を意味する俗語でした。

 ところが、保育士さんや介護士さん、看護師さんなどのヒューマンサービスの需要が急増した1970年代に、米国の精神科医で心理学者のハーバート・フロイデンバーガーは勤務先の保健施設で、熱意あふれる同僚たちが、次々と精神的、身体的異常を訴えるのを目撃。彼らは1年余りの間に、エネルギーを吸い取られるかのように、仕事に対するやる気や関心を失っていったのです。

 そこでフロイデンバーガーは、「オ〜、これはどういうことだ〜! バーンアウトに似ているぞ!」と(実際こう言ったかどうかは定かではありませんが)、「燃え尽き症候群=バーンアウト」という言葉を労働の世界に持ち込み、同僚たちの状態を説明したのです。

 当初、フロイデンバーガーはバーンアウトを「持続的な職務上のストレスに起因する衰弱状態により、意欲喪失と情緒荒廃、疾病に対する抵抗力の低下、対人関係の親密さの減弱、人生に対する慢性的不満と悲観、職務上の能率低下と職務怠慢をもたらす症候群」と定義。

 これを見た世界中の研究者たちは、「お! そういう状態はあるある!」と一斉にバーンアウト研究に乗り出し、いくつもの実証研究が蓄積され、その状態を測定できるモノサシも開発されました。

photo 職務上のストレスによる無気力状態も「燃え尽き症候群=バーンアウト」として説明されるようになった(写真は記事と関係ありません)

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