しかし、こうした賛否両論が行き交う状況には違和感がある。
そもそも、消費税の引き上げがなぜ景気の落ち込みにつながるか。増税すれば消費者の財布から消費の原資を奪うのは当然だが、最大の理由は消費税の所得逆進性にあることは疑う余地もないだろう。消費税は低所得者ほど痛税感が大きい。これは軽減税率という措置や、低所得者向けの対策が別途用意されることからも、政府自身が認めている事実である。
こうした所得逆進性の高い税の税率引き上げにより、税収確保を進めていくことは、少しずつ進行している日本社会の格差の拡大を助長する。報道がこうした増税のタイミングで話題にしなければならないのは、景気対策の巧拙うんぬんではなく、持っている者にも応分の税負担を求めていくためにはどうすべきか、ということだと思う。
確かに、日本の財政状況は危機的な状況である。これまでにも「ワニの口」(図表1)に例えられ、収支のマイナスを借金が埋めていることは、周知の事実であるし、今後さらに進行する高齢化に伴う社会保障費の増大を考えれば、増税が避けられないことは皆分かっている。
そして消費税という税の性質上、支出時に原則捕捉できるため、ある程度の公正性も高いとされ、欧州各国では既に税率20%台が当たり前の水準となっている。これからも段階的に消費税率は欧州並みに上がっていくのは避けられないという予測も一般的だから、皆どこかで消費税が上がることについて諦めているような気がする。
しかし、この所得逆進性の高い税ばかりで税収確保をしようとすれば、人口減少・高齢化の状況下にあるこの国の個人消費は急速に力を失ってしまう可能性がある。ある調査によれば、個人消費の8割以上は、保有金融資産1億円未満の中流層以下の消費によるものであるとされる。この活力が失われれば、負のスパイラルが急加速する懸念は大きい。
財務省が公表している資料によれば、所得税の所得に対する負担率は、所得金額が1億円を超えたあたりから負担率が下がっていき、高所得者ほど税負担率が低くなることが示されている(図表2)。
これについて、高所得者の所得が、分離課税となっている(一定税率で累進性がない)株や土地の譲渡所得の構成比が高いため、結果的に税の負担率が低くなっていると財務省は説明する。フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が看破した「r(リターン)>g(グロース)」:資本収益率は、働いて得られる所得の伸びを上回るという状況そのものと言える。
このような徴税環境を放置したままで、税収を得やすいから消費税で財政再建を急ぎます、というのでは、庶民としては納得できるはずはない。政府が景気対策で奇策を繰り出しているのも、本質に目を向けさせないための陽動作戦ではないかとさえ疑ってしまう。
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