さて、具体的なメカニズムの話に戻ろう。
まずは驚かされたシートだ。すでに第6世代の開発時期には、マツダは人を中心としたクルマづくりをテーマに据えていた。代表的なのは操作系の自然な配置だ。ペダルのオフセットを排除したことの意味は大きい。シートについても、背骨のS字カーブが大事なことは分かっていた。ただその実現手段に試行錯誤があった。
実際シートは第6世代を通じて何度も方向性が変わった。最後のころには、シートの面圧にこだわって、体の一部に圧が集中しないように体全体を浮かせて支えるムアツ布団のようなシートになっていた。しかし、残念ながらそれはマツダの言う骨格を支えるものにならなかったし、筆者はそれについて「理論は完璧だが、製品として未成熟」とダメ出しを続けてきた。しかし、ついにそれが製品として実を結ぶ日が来たのである。
マツダは、体のどこを支えると人体は安定するか、それもただ安定させるのではなく頭の位置をスタビライズさせ、人体本来の能力を最大限に発揮させるためにどこを支えるべきかをようやく突き止めた。
それは、骨盤を歩行状態と同じ角度に立てて支持するための最適ポイントだった。新型のシートは主たる重量を坐骨下の前側で支え、そこを起点にしたシーソーのような左右の傾きをサポートするために両大腿骨の付け根を支持した。
こうすると左右の支持スパンを広げることができ左右方向に安定させることができる。さらに前後方向である。まずは基礎として骨盤上部、背骨との接合部付近を後ろから支えて、骨盤の後傾を防ぐ。これによって骨盤が立てば、臀部、つまり坐骨と大腿骨の付け根がシートの奥へより深く入れられるようになる。
さらにシート座面前方の腿前裏部の高さ調整を設けて、脚の長さの異なる人でも常に最適に支持できるようにした。これが骨盤の前傾を防ぐ。スポーツで言う「腰を落とす」状態をシートで作り上げた。
しかし実はもう一カ所重要なポイントがある。胸郭の重量をどこで支えるかだ。これをシートバック全体の面で支えてしまうと、脊柱のS字カーブが損なわれてC字カーブになってしまう。
クルマが前後左右に揺れたとき、人間はバランスボールに乗っているとき同様、体幹の筋肉で上体を動かしてバランスを取っている。だからこそ骨盤が動かないことが重要なのだ。体幹の筋肉の足場となる骨盤がしっかり固定でき、体幹の筋肉が拘束されずに機能すればこそ、頭をスタビライズさせる体の機能が働き、安定して前方を見たり、三半規管を正常に働かせることができるのだ。
ということは、シートの背もたれはその動きを阻害してはいけない。では、どこで支持するのかと言うと肺の下あたり、S時の途中で曲がり方向が反転するあたりだ。ここで斜め上に向けて脊柱を支えてやれば、体幹の筋肉の邪魔をせずに上体の重量を支えられる。ちなみに図は一昨年の開発途中のもので、胸郭の支持位置は変更されている。
これが新しいMazda3のシートだ。文句なく世界トップの水準にあるだろう。長らく理論先行で追いつかなかった製品がようやくそこへ到達したのだ。
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