新型アクセラの驚愕すべき出来池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2019年01月28日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

シャシーとサスペンション

 さて、骨盤を固定して脊柱のS字カーブと体幹の筋肉を生かしてバランスを取るとき、シートのサポートだけやれば良いのかと言うとそうではない。タイヤから入ってくる揺れがクルマの各部を通って骨盤に到達するまでに、メインの揺れに遅れて、伝達経路で回析した振動が入ってくる。揺れは打ち返す波のように遅れた成分が合成されて複雑になり、時間も長くなるのだ。この複雑な揺れが人間の調整機能に負担をかける。長く不規則な揺れをずっと体幹の筋肉で補正し続けなくてはならないからだ。

縦横の曲げ剛性に加えて、斜め方向の剛性向上に留意した環状構造のシャシー 縦横の曲げ剛性に加えて、斜め方向の剛性向上に留意した環状構造のシャシー

 それを防ぐためにマツダは揺れの伝播ルートを回析した。まずはシートフレームとレールを高剛性化して、フレームがしなってばねになった結果、遅滞して到達する揺れを軽減した。シャシーも同様だ。通常クルマは左右方向にいくつもの環状構造を持っており、ちょうどロールバーのようにシャシーの変形を防いでいる。Mazda3ではこの環状構造を横方向だけでなく、縦方向にも増やした。狙いは、横方向のねじれ、縦方向のねじれ、対角線方向のねじれによって発生する遅れた揺れを軽減することだ。

対角線の剛性を上げることで前後に入力される振動ピークの位相ずれを抑制した 対角線の剛性を上げることで前後に入力される振動ピークの位相ずれを抑制した

 加えて、シャシー各部に「節」を加えた。竹の節と同じようにシャシーの所々に閉断面を設ける。四角形断面のその節は3方向だけスポット溶接して、あえて一方向だけ波の逃げ道を作る。それを減衰特性の強い樹脂原料の減衰ボンドで待ち受け、内部減衰で熱に変換して振動を殺す。一種の振動ダンパーである。こうやってモグラ叩きのように徹底してNVH(騒音・振動・ハーシュネス)の伝達経路をつぶし、比喩的な意味でも直接的な意味でもノイズを減らしていったのだ。

 全ては人間への負荷軽減のためであり、精妙緻密な人体のメカニズムを最大に生かすためである。

 同じ思想はサスペンションにも反映された。エンジニアはこう説明する。「マルチリンクなどの高級なサスペンションほど、トーをコントロールしたりキャンバーをコントロールしたりしますよね? でもそれは人間がやってるのではなくて機械が勝手にやっているんです。うまく機能した時は良いかもしれないけれど、常にそうとは限らない。余計なお世話になるケースもあるんです。それは人間感覚に沿わない。だから余計なことをしない。シンプルに引き算で行くんだと」。

 その結果、リヤサスペンションはマルチリンクからトーションビームアクスル(TBA)に変更された。幹部の一人はそれを別の方向から説明した。「モデル・ベースド・デベロップメント(MBD=数理モデルによるコンピュータシミュレーション設計)でより精度の高い設計を行うためには、計算が複雑になり誤差の原因となるものをいかに減らすかが重要です。だったらアームの数は少ない方が良い。マルチリンクよりTBAの方がより良い結果が出せるのです」。

全ての伝達経路を精査して、揺れの遅れを可能な限り排除した 全ての伝達経路を精査して、揺れの遅れを可能な限り排除した

 書き加えれば、今回のTBAは現在パテントを申請中だそうで、H型構造のTBAの左右をつなぐビームの形状が全く新しい。それはメガホンを2つ合わせたような形状になっている。ビームの中央が最も細く、両側に行くほど広がる形状だ。これにより横力を受けた時のトー変化、つまりビーム全体の変形によるタイヤの向きの変化を抑制しつつ、ねじり方向のみ適切な弾性で変形させることが可能になった。ちなみにトー剛性の向上は78%だそうだ。セッティングとしてのリヤタイヤの横力によるトー変化はほぼゼロに仕立てたと言う。

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