同統計を取りまとめている部署は、参事官付きの「室」となっており、一般的な部署からは独立した存在である。業務に従事する職員の専門性も高く、異動もそれほど多くない。政権への忖度があったと仮定すると、幹部が直接、指示した可能性が高いだろう。
整理すると厚労省は、(1)ルール上、全数調査すべき調査をサンプル調査に勝手に切り替える、(2)サンプル調査の場合に必要となる補正作業を忘れる、(3)すべてのデータを訂正せず18年からの訂正のみにとどめる、(4)一連の内容を公表しない、という4つの不正を行っている。
これは先進国の統計としては絶対にあってはならないことであり、非常に深刻な問題といってよい。
先ほども説明したように、現時点では政権に対する忖度があったのかどうかは不明だが、日本の統計は政権を忖度してデタラメに集計されていると海外から批判されたとしても、反論できない状況である。
世間では政権への忖度の有無が重視されているようだが、現実の問題はもっと深刻である。
日本はまがりなりにも自らを先進国であると主張し、国際社会もそれを是認してきた。だがこのような不正が今後も発生した場合、この前提は音を立てて崩れてしまうだろう。
近年の日本はあらゆる分野で劣化が顕著となっているが、統計という国家の基幹部分にまで及んできている。この問題に対して日本がどう対処するのかで、先進国としての日本の将来は大きく変わるだろう。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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