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トヨタ社長が「終身雇用は難しい」と言っても、やっぱり「終身雇用」が必要な理由専門家のイロメガネ(2/4 ページ)

» 2019年05月21日 07時07分 公開
[榊裕葵ITmedia]

「就職」ではなく「就社」の文化

 第1に、これまで多くの日本企業が転職しても社外で通用するようなキャリアを形成できる働き方を社員にさせてこなかったことです。

 古くから日本の採用慣習は「新卒一括採用」でした。しかも「総合職300名募集」というような求人の仕方で、大学の何学部で何を学んできたのかもさほど重視されていません。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 法学部を出たから法務部に配属されるとか経済学部を出たから財務部に配属されるとか、といったこともなく、会社から辞令が出された職場に配属されます。「就職」よりも「就社」であり、配属されるまでどのような仕事をするのか分からないのが実情です。

 入社後も社内の複数の部署を転勤や配置換えにより経験し、ゼネラリストを目指すのが一般的なキャリアプランでした。社員も企業の意向に沿い、辞令1枚で全国へと転勤をいとわない働き方をしてきました。

 そのような働き方ができたのは、まさに「終身雇用」という不文律があったからです。「終身雇用」を前提に、社内人脈なども含め、定年まで勤め上げるためにキャリアを形成してきたのが従来の日本企業の社員でした。

 逆にいえば、新卒で入社した会社の外に出てしまったらそれまでのキャリアが消えてしまうリスクもあり、同等の条件で他社へ転職することも難しいことを意味します。

 欧米のように「経理のプロ」「人事のプロ」といった専門特化型のキャリアを形成する働き方であれば、どの企業に勤めるにしても原則として自分の客観的な労働市場における価値は変わりません。

 日本企業の社員は個人にひもづくスキルよりも、場合によっては私生活や自己の希望を犠牲にしても、会社の配属に従い、一社専属の「就社」を前提として働いてきました。そこから「終身雇用」のはしごを会社側が一方的に外すのは、やはり残酷ではないかということです。

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