「闇営業」の原因は、日本の芸能ビジネスの「中抜き構造」にあるスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2019年07月02日 07時22分 公開
[窪田順生ITmedia]

芸能ビジネスの根幹は「奉公制度」

 では、なぜこの両国はこれが当たり前になったのか。個人的には、江戸時代の奉公制度が影響をしていると思っている。

 店に奉公に出された丁稚も、「下女奉公」という名目で女衒(ぜげん)へ身売りされた遊女も基本、一人前になるまではまともに賃金をもらえない。最低限の衣食住は面倒をみてくれても、店や遊郭側が、稼げるようになるまで「タダで育ててあげている」という考え方からだ。働かせてやるだけでもありがたく思え、という典型的な「奴隷契約」である。

 では、一人前になったら晴れて「奴隷契約」が見直しされるのかというと、そういうわけでもない。ここに至るまで店や遊郭では先行投資をしているということで、稼ぎからガッツリと「中抜き」をする。もしも独立をしたいなどと言い出したら、多額のペナルティーを課せられてしまう。

 いかがだろう、現代のタレントが置かれた状況とよく似ていないか。一人前になるまでは事務所に育てられるので、贅沢(ぜいたく)など言ってられず、スーパーのチラシモデルや水着グラビアなどどんな仕事でも嫌な顔一つせずにこなさくてはいけない。売れたら売れたで、今度は「お前をここまで育てるのにいくらかかったと思っているんだ」と脅されて、馬車馬のようにこき使われる。もし独立して個人事務所など立ち上げようものなら、業界のルールを破ったとして、テレビから干されてしまう。

 韓国の芸能界も基本的には、民主化後の90年代から日本をモデルにして発展とした。その証がちょいちょい報告される、枕営業など奴隷的な接待を強要されたアイドルや女優の自殺だ。日本の芸能ビジネスを真似たので、そのルーツにある「奉公スタイル」までも、きっちりと受け継がれてしまっているのだ。

(画像はイメージです)

 このように日本の芸能ビジネスの根幹が「奉公制度」だとすると、今回のような「闇営業」が起きるのは全て辻褄(つじつま)が合う。

 事務所が絶大な力があった昭和の時代は、タレントも丁稚や遊女のようにじっと奴隷として耐えなくてはいけなかったし、報酬の半分以上も抜かれる「中抜き」も受け入れなくてはいけなかった。

 しかし、時代は変わった。ネットやSNSによって「中抜き」なしの活動をするタレント的な素人がたくさん出てきた。事務所など所属せずとも、Twitterでネタ動画がバズれば、普通の女子大生が一夜でタレント顔負けの人気者になれる時代だ。

 そういう「中抜き」が崩れる中で、ダウンタウンなどテレビで多数のレギュラーを抱える売れっ子以外の芸人たちの気持ちになってみたらどうか。自分たちも「中抜き」のない仕事をしたい。そんな風に思い立つ人がいても、何も不思議ではないのである。だからこそ、スリムクラブや2700は仕事で一緒になった、ものまね芸人・バンドー太郎さんに「仕事があったらください」と自らを売り込んだのではないのか。

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